宗像は、新潟の「石油」由来の旧家の秘密と九州の地震で消えた幻の島の謎を解く=「宗像教授異考録」8・9

圧倒的な歴史的知識と猪突猛進といってもいい探求心、そして、制約をもたない独自の理論構築と考察力で、古代史・人類史の謎解きに挑み続ける異端の民族学者「宗像伝奇」の活躍を描いた「宗像教授」シリーズの第2シリーズ『星野之宣「宗像教授異考録」(ビッグコミックス)』の第8弾から第9弾。

あらすじと注目ポイント

第8巻 宗像は、新潟の「石油」由来の旧家の秘密と九州の地震で消えた幻の島の謎を解く

第8巻の収録は

第1話 廃線
第2話 九呂古志家の崩壊
第3話 失われた家

となっていて、第1話の「廃線」は、北海道の新しい民話・伝説ともいえる、明治・大商時代に語られた「偽列車」がテーマです。北海道の東北端近くに位置する「常呂郡」から都会に出て会社を興したもののうまくいかず、金策に置かれる生活に疲れていた一人の男性が、両親の葬式で帰郷したときにみた「幻の列車」の話です、物語に出てくる朱毬別村というのはおそらく架空の地名で、モデルは現在は北見市になっている常呂町にあった湧網線の「常呂駅」あたりかな、と思われます。

「偽列車」伝説というのは、明治時代に、汽車が夜に走行していると、向こうから汽車が猛スピードで逆走してきます。ぶつかりかけたところで、こちら側の汽車の機関士がブレーキをかけて急停車すると、向こうの列車は忽然と消えてしまった、というもので、ある時、こちら側の機関士が止まらずの走らせると「ギャッ」と言う声と共に向こう側の列車は消えてしまい、線路には「貂」の死骸が遺されていた、というものです。

この「廃線」では、廃線間近の駅で列車をまつ男が、「偽列車」の幻を見るのですが、その幻の列車に乗った人々は全て男の幼少時代、一緒に過ごした人々で・・という展開です。「宗像教授」シリーズ」にが珍しく、近代の伝説を扱った、ハートウォーミングなお話となっています・

第2話の「九呂古志家の崩壊」は、7世紀の昔から続いているといわれる、新潟の旧家に招かれた宗像や忌部神奈たちが、その家に残された伝承の秘密を調査するよう依頼されます。その旧家は、古来からこの地に産する「石油」や副産物のタールを使って、船の製造や交易で栄えていたのですが、定期的に九呂古志家の守り神とされている一つ目の神「黒入道」に13歳の子供を生贄に捧げていた、という伝承も残されています。

「一つ目」ということで、古代の製鉄民との関連があるのでは、と宗像が招かれたようですが、彼が見つけたこの家の謎は、もっと古い、旧石器時代の日本のいたある古代生物に関連したもので・・という展開です。

個人的には、途中から旧家の呪われた歴史に生み出されたモンスター話に転化してしまったのが、ちょっと残念です。

第3話の「失われた家」は、別府湾にあったという伝承の残る、鉄砲鍛冶が住んでいて、戦国時代末期の地震で一夜にして海中に沈んでしまったという「瓜生島」という伝説の島がテーマです。

しかし、この島の存在は昔の歴史書や記録には残されておらず、架空の島とも考えられているのですが、この島の実在を調査する潜水調査に加わった宗像が、鉄砲の一大生産地だったという伝承と、沈んだ地点と思われるところに沈んでいた「大筒」から、島の成り立ちと一夜にして地震で海中に沈んでいった理由を明らかにしていきます。

第9巻 宗像は、日本史で封印された「神功皇后」にギリシア神話を見出す

第9巻の収録は

第1話 鯨神
第2話 鴈風呂
第3話 女帝星座

となっていて、第1話の「鯨神」は、秋田の「ナマハゲ」や石川の「あまめはぎ」や山形の「あまはげ」など毎年、多む楚歌から正月にかかけて各家を訪れて怠け者もみつけて折檻する、仮面をつけた「来訪神」の謎解きがテーマです。ヨーロッパや中国大陸でも同じような「来訪神」「客人」の民俗はあるのですが、日本の場合は全て、海の沿岸の民俗であるという特徴をもっています。

宗像は、彼の講座を受講している学生の故郷、石川県の海沿いの村に招かれ、そこある「鯨」を祀った神社から、海からくる来訪神の正体と、それにまつわり伝承の真相を明らかにしていくのですが、そこには陸に乗り上げてしまった鯨や海豚に関わる海沿いの民の悲しみが隠されていて・・という展開です。

第2話の「雁風呂」は、毎年、北方から飛来する雁は、一枝の小枝をくわえてきて津軽の外ケ浜に置き、春がきて再び北方に還る時、浜の小枝を再びくわえて還っていくという言い伝えがあるのですが、越冬する一冬のうちに獲らわれたり、食われで北へ還らない雁の分の小枝を集めて、風呂を焚き、死んだ雁を供養する、という行事があったようなのですが、実際に雁が小枝をくわえてくる、ということはありません。

しかも、津軽にこういった伝承が遺されたのか、を今回は忌部神奈が推理します。

第3話の「女帝星座」は古代史の中で、戦前は超有名な存在だったのですが、戦後は神話上の架空の人物としてとして、無視されている状態になっている「神功皇后(オキナガタラシヒメ)」がテーマです。

彼女の「陵墓」とされている古墳の樹木に刻まれた「W」の字をきっかけに、古代海人族息長氏の末裔と称し、「天星教会」という新興宗教法人の主宰者であるとともに日本有数の鉄鋼会社の経営者でもある「息長帯朝妃」に依頼された宗像が「神功皇后」伝説とギリシアの「カシオペア」神話との関連を探っていきます。

ちなみに、この話に登場する「息長帯朝妃」は古代氏族や海人族の謎解きのキーマンとして、後巻にも登場してきますので覚えておきましょう。

レビュアーの一言

第8巻に収録されている「廃線」は、北海道の廃止された鉄道にまつわる話なのですが、ここででてくる「偽列車」伝承は、鉄道開通間もない頃に生まれた伝承とされることが多いのですが、民話研究家の松谷みよ子さんによると運転士がイギリス人であったころには発生しておらず、運転士が日本人の変わった時期から語り伝えられているとのことらしく、日本人のメンタリティに関わりの深い民間伝承のようですね。

さらにこの話は廃線となった鉄道駅でおきる話のですが、国鉄民営化やその後の鉄道を運営する第3セクターの経営悪化で、廃線となった鉄道、鉄道駅が日本中に数多く生れてきているでの、廃線駅にまつわる、ホラーだけではない新たな「鉄道伝説」がたくさんでてきてもいい頃だと思います。

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