宗像が「悪い子はいねがー」のナマハゲやクランプスと無差別殺人の謎を解く=星野之宣「宗像教授世界篇」2

圧倒的な歴史的知識と猪突猛進といってもいい探求心、そして、制約をしたない独自の理論構築と考察力で、古代史・人類史の謎解きに挑み続ける異端の民族学者「宗像伝奇」の活躍を描いた「宗像教授伝奇考」「宗像教場異考録」の最新シリーズ『星野之宣「宗像教授世界篇」(ビッグコミック)』の第2弾。

前巻では、イギリスから帰国し東亜文化大学の民俗学教授に復帰した宗像が、帰国する前に恋人であった忌部神奈がガンで夭折したことを知り、兄の捷一郎とともに彼女が研究を続けていた「狼」の伝説をおいかけたのですが、第2巻では、第1巻の最終話であった「鹿男」の結末と北海道で発見される「イノシシ」の骨の秘密などが語られます。

あらすじと注目ポイント

第2巻の構成は

第5巻 鹿男 後編
第6話 猪の小舟
第7話 牽牛の河
第8話 燔祭の羊 前編/中編

となっていて冒頭話の「鹿男 後編」の解説をする前に、前篇のおさらいをしておくと東亜文化大学の講義にやってきた宗像に歴史雑誌「ビッグヒストリー」の担当者・早乙女が連載の次回テーマに「ナマハゲ」と「クランプス」の共通点をとりあげてはどうかという編集部からの提案をもちかけているところに、覚醒剤中毒で刃物を持った男が乱入し、そこを早乙女が取り押さえるという場面で始まりました。

クランプスというのは、年の暮に村の家々を訪問して良い子にがお菓子をプレゼントしていたという聖ニコラウスのお供をしていた半人半獣の鬼ですね。聖ニコラウスがサンタクロースの原型となり、クランプスは、悪い子を懲らしめたり、食い殺していたという伝説を残しているのですが、宗像はこれを世界中にある「集団生贄」で子供や若い者ばかりが集められて殺されている遺跡や、旧約聖書で長老アブラハムが老いてからやっとできた我が子イサクを神に生贄に捧げるよう命じられ、天使に制止されるという話と結びつけていきます。

そして、その伝承の中に、長い氷河期が終わったものの再び長い冬が訪れ飢餓に襲われることを恐れる人類の不安が、集団生贄の隠れていると推理するのですが、その不安は常に人類の心の中に潜んでいて、きっかけを得ると吹き出すのだろうと考えるのですが、それは現在の無差別殺人に共通するもので・・という筋立てですね。

二番目の「猪の小舟」は日本の本州が弥生時代となりながら、縄文時代が継続し、「続縄文時代」と呼ばれていた北海道で、棲息していなかった「猪」の骨が発見されている謎解きから、それが「ヒグマ」の生贄へ変化していった理由を推理しています。

三番目の「牽牛の河」は七夕伝説で有名は「織姫牽牛」の謎解きです。中国の伝説やアマテラス神話との関連性で語られることの多い伝説なのですが、これを古代ペルシャからヨーロッパにかけて行われていた牛を生贄にする「殺牛祭祀」に結びつけ、さらに、日本では仏教戒のため一般化していなかったといわれる「肉食」の習慣と雨乞いの儀式とを結びつけていく、「星野ー宗像」的歴史の謎解きは興味深いです。

最終話で宗像はヨルダンへ行き、そこで「トール・エル・ハマム」遺跡の発掘に立ち会います。ここは作中では、堕落した生活を続けrているため、神の怒りに触れて火の雨をふらされて滅んだといわれる「ソドム」か「ゴモラ」の都市遺跡では、とされているのですが、これを最初のヒントにして、ノアの洪水の謎解きを行い、さらに、一神教が始まった源には、彗星の衝突があったのではないか、というキリスト教やイスラム教関係者からは暗殺されそうな禁忌の発想へと踏み込んでいくのですが、種明かしは次巻となります。

レビュアーの一言

忌部神奈へのレクイエムといった色合いの強かった第1巻に対し、今巻からは「世界篇」というにふさわしく、日本の伝承を最初取り上げていても、最終的には世界的な謎解きへと発展してく話が多くなっていきます。さらに、今巻では「一神教」という特大級の宗教ネタも飛び出してきています。

まあ、「一神教」のルーツとかについては、おそらく「多神教」にどっぷりつかっている「日本人」をはじめとする「アジア人」でないと大胆な発想はできないだろうな、と思うところであります。

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