ミカヅチ班の新米は、長野の遊郭跡にでる遊女の悪霊に遭遇する=内藤了「迷塚 警視庁異能処理班ミカヅチ」

幼いころから霊視ができるため、周囲から疎まれて成長し、フリーの「祓い師」をしていた青年・安田怜が、警視庁の警視正・折原を襲った不運奈死亡事故を予知したことから、警視庁の地下にある「異能処理班・ミカヅチ」の職員として雇われ、世の中にはみ出してくる怪異の「処理」を行う、ホラー系ミステリー・シリーズ「警視庁異能処理班ミカヅチ」の第四弾が『内藤了「迷塚 警視庁異能処理班ミカヅチ」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻で、悪魔と契約して権力を手にしていた政治家が、その契約が終了したため地獄の番犬に食い殺されたところを目撃した、本編の主人公・安田怜が、ミカヅチ班と警視庁との連絡役で、妹・真理明の命を救うため、悪魔と契約し、悪魔憑きとなった極意京介とその妹を救うための方策を模索し始めるのですが、そのために新たな怪異へと遭遇していきます。

あらすじと注目ポイント

収録は

エピソード1 陰火を喚ぶ女
エピソード2 東急線武蔵新田駅 迷い塚

の2編。

第1話では、まずプロローグで、昔は栄えていたのですが今は過疎の波がじわりと押し寄せているらしい、地方都市の盛り場から始まります。そこで、女を食い物にしている男が、盛り場の横道にある祠の前にいる女にハンカチを貸したことがもとで、その女にとり殺されるところから始まります。

少しネタバレしておくと、この話のモデル地は「長野市」の善光寺の精進落としで栄えていた「鶴賀新地」のあたりとなっています。このあたりは、長野県出身で在住の作者の経験に裏打ちされた描写が続くので、「裏」長野市観光案内としても貴重かもしれません。

物語のほうは、赤バッジこと「極意」の悪魔との契約をなんとかするためのヒントを、ミカヅチ班の地方の連絡係をしている元警察官で既に死者となっている「小埜(おの)」にアドバイスを求めてき、「小埜」から、教えてほしければ長野県内で頻発している、男が焼け死ぬ不審火の謎をといてみろ、と宿題をだされてことから、この怪異に踏み込んでいくことになります。

そして小埜が示した不審火のあった町にすべて「遊郭」があったという共通点から、怜は善光寺参りの参拝客を相手にした遊郭のあった「鶴賀新地」で入ったスナックのママと従業員から教えられた、盛り場の横道にひっそりと遺されている寂れた神社にお参りしたことで、今回の不審火を起こした悪霊となっている、昔の遊女に遭うことになるのですが・・という展開です。

悪霊の妄念を払うために、怜が行った捨て身の行動が何だったのか、原書で確認してほしいのですが、悪霊の出現場所が、今は寂れてしまった「鶴賀新地」の遊郭跡ではなく、現在の繁華街で、男と女の情念をうごめく「権堂」の盛り場内にある空き地だったという設定がうまいですね。

第2話では、長野での不審火の謎を解こうとして遊女の悪霊に体を乗っ取られそうになったところを、「極意」に救われた怜が、悪魔との契約を打ち破る方策を探るため、「あちらの世界」を覗こうと、大田区にある「新田神社」の「忌み地」を訪れるというストーリーです。

そこは「忌み地」の上に、人が出入りしないように監視されている「禁足地」でもあるため、ミカヅチ班の上司の警視正をはじめ、広目や神鈴、土門たちからも出入りしないよう止められるのですが、怜はあえてそれを無視して踏み込み、「あちらの世界」へ入り込んでしまうのですが、そこで、アメリカの病院で治療している「極意」の妹と出会うこととなり・・という展開です。

レビュアーの一言

第1話の舞台となる長野市の「鶴賀新地」ですが、もとは権堂にあった善光寺の参拝客をあてこんだ「遊郭」が、明治天皇が行幸になるということで、当時は街のはずれにあった東鶴賀町に強制移転された、というエピソードが本書中で紹介されています。

移転当時、ここには妓楼40軒、貸座敷48軒、娼妓300人いたようですが、明治後期から大正初期にかけての全盛期には娼妓が500人を超える大盛り場に発展していたようですね。ちなみに娼妓は新潟県出身の女性が多かったそうで、長野と新潟との「裏」の

人の流れの一端がうかがい知れます。関連があるかどうかわからないのですが、新潟県出身の童話作家・小川未明の書いた「赤い蝋燭と人魚」では、神社で拾った人魚の娘を大金に目がくらんで老夫婦が香具師に売り払うという設定になっているのですが、これはこのあたりの事情をひそかに示したものだったのでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました