イギリス船の難破で栄之助の「通詞」魂が試される=川合円「とつくにとうか」2

外国との交易や交渉が長崎の出島だけに限られ、その相手も中国・清国とオランダに限られていた江戸時代。

その唯一の「窓」ともいえる出島で、オランダ商館のカピタンや商館員と幕府役人との間の通訳を務める「小通詞」の森山栄之助と彼の同僚の通詞見習い・堀達之助を主人公に繰り広げられる異色の幕末・お仕事マンガ・シリーズ『川合円「とつくにとうか」(アフタヌーンKC)』の第2弾。

前巻では、ようやく小通詞に昇格した後の仕事が、オランダ商館のカピタンが4年に一回、対日貿易の維持とお礼を述べるため、長崎から江戸へ参府し、将軍と将軍世子、幕府の高官に挨拶する「カピタン江戸参府」の通訳として江戸入りをしたのですが、今回は、舞台を長崎に戻し、「オランダ通詞」の日常が描かれていきます。

あらすじと注目ポイント

第2巻の構成は

第6話 たっぷりの砂糖
第7話 便利な道具
第8話 裸で
第9話 捨てたもんじゃない
第10話 いい通詞とは
第11話 始めた覚えたオランダ語

となっていて、冒頭では雨の日に出会って以来、気になっている崇福寺の娘「おふゆ」にアプローチしょうとする栄之助の姿から始まります。最初、好調かと思われたのですが、栄之助が通詞であることを知ると「おふゆ」は突然彼を避け、さらに街でオランダ商館の医師・カロンと一緒にいる栄之助に出会うと卒倒してしまい・・という筋立てです。

当時、異国人とりわけ西洋人と出会う機会など、長崎ぐらいしかなかったでしょうから、その拒否反応は想像できるとことです。

さらにこの事態を拡大するかのように、イギリス船が難破し、その乗組員たちが海岸に漂着します。

彼らは崇福寺の離れに隔離されるのですが、食事の世話も言葉が通じないのでかなりの苦労です。そのうち、一人の船員のもっていた十字架のネックレスが元で、船員が寺僧に暴行しようとしたというトラブルまで発生し、隠れキリシタンの疑惑をかけられた栄之助は自宅を捜索された上に、踏み絵も迫られて・・という展開です。

後半部の主人公は栄之助の同僚の「堀達之助」です。彼はオランダ語の通訳技術からいうと栄之助以上なのですが、父がシーボルト事件に連座して家禄もとりあげられ、いわばマイナスの状態からスタートしてますので、未だに「通詞見習い」の身分です。兄弟姉妹も多く、貧しい暮らしから脱却するため、「小通詞」への昇進を焦る達之助だったのですが、その思いはかなり空回り気味ですね。

そして、小通詞への昇進試験の日、「いい通詞とは何か」という口頭試問に口ごもってしまう達之助のいる試験会場に、将軍へのプレゼント用に持ち込まれていた「象」が入り込んできて・・という展開です。

レビュアーからのおまけ

前半部のイギリス商船の難破事件の際、漂着した乗組員と日本側との意思疎通がほぼできていないのですが、この時、文化5年(1808年、この物語は天保6〜8年(1835年〜1837年)を時代設定にしてますので、およそ四半世紀前のことですね)にイギリス軍艦フェートン号がオランダ船拿捕のため長崎の港へ入り込んできた際につくられた「韻厄利亜(アンゲリア)語林大成」という日英辞書はすでにあったようです。しかし、蘭日辞書(ズーフハルマ)の編纂も始まったため、忘れ去られていたようです。

この当時、イギリスはフランス帝国の影響下にあるオランダに対抗して、バタヴィアの接収に動いていて、その好戦的な様子やフェートン号事件の経験から徳川政権の幕閣はイギリスをかなり危険な国と考えていたようで、その意味で、森山栄之助が取り調べを受けたのも、単純な「隠れキリシタン疑惑」だけではないように思えます。まあ、この後、イギリスは1840年にアヘン戦争を起こし、香港を獲得していますのであながち杞憂ではなかったように思えます。

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