「新九郎奔る!」9=今川義忠死後の駿河の混乱収拾を巡り、新九郎は太田道灌と対決する

戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く『ゆうきまさみ「新九郎奔る!」』シリーズの第9弾。

前巻で姉の伊都が嫁入りしている駿河の今川義忠が関東への出兵要請を無視しながら、遠江の守護への任官を依頼してくることに不快感を抱いた幕府側の使者として関東へ出向き、堀越公方や太田道灌といったこの地の有力者たちと出会った新九郎なのですが、義忠が遠江出兵の途上で流れ矢に当たって急死したことから、駿河・遠江の騒乱に巻き込まれていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第五十二話 駿河動乱 その1
第五十三話 駿河動乱 その2
第五十四話 道灌 その1
第五十五話 道灌 その2
第五十六話 道灌 その3
第五十七話 道灌 その4
第五十八話 道灌 その5

となっていて、まずは、遠江の支配地域を任せていた堀越貞延が地元の国人侍に討たれてことを咎めるため、再び遠江に出陣した、今川義忠が塩買坂で流れ矢に当たって討ち死にしたところから始まります。

8巻と最後のあたりと経緯と総合すると、幕府側が駿河守護の今川義忠に命じたのは、三河の混乱を収めるため、東軍の支援軍として派遣したつもりだったのですが、もともと遠江守護職を取り戻すことにに欲を出していた義忠が遠江の支配拡大まで色気を出して、戦線を拡大。義忠は連戦連勝だったのであうが、実は攻め滅ぼした国人侍たちが幕府側の意向で動いていたもので、幕府にとっては義忠は味方を討伐した反逆者として認識されています。伊都にとっては、突然の夫の死に加え、息子に家督を相続させることにも暗雲が漂ってくる事態ですね。

幕府方によっては反逆者的な位置づけとされ、さらに西軍との対立も続いている中で、今川家の家中としては、家の存続を図るため、しっかりとした人物に今川家を継いでほしいと思うのはもっともで、ここで、義忠の従兄弟の今川新五郎範満が家督を継いでは、という話が持ち上がります。さらに、義忠の小姓が新五郎の暗殺を企てるなど、新五郎派と伊都・竜王丸(義忠)派に分かれて今川宗家内は大混乱という状況です。

ここで、京都へ帰っていた、本編の主人公・新九郎が姉の苦難を救うため、駿河に再び派遣されることで、戦国時代の幕開けをしたといわれる北条早雲出現の端緒となりますね。

ただ、彼が幕府側として駿河に赴けば簡単に解決する話ではなく、新五郎とは縁戚関係にある相模国の守護である扇谷上杉が乗り出してきたため、話はどんどんややこしくなってきます。この扇谷上杉から今川宗家の内紛を治めるよう命じられてやってくるのが、たいていの人は「山吹の花」の故事ぐらいでしか記憶にない「太田道灌」で、今巻の後半では、今川新五郎範満側にたつ道灌と、伊都・竜王丸側につく新九郎との間で、家督の相続者をめぐっての虚々実々の駆け引きが展開されていくのですが、詳細は原書のほうで。

「山吹の花」のエピソードから、風情のわかる教養人としてのイメージのある太田道灌ですが、本シリーズでは、権謀術数に長けた、相当食えない人物として描かれています。以前の説では、新九郎と道灌は同い年ということだったのですが、最近の研究では20歳以上離れていたのでは、とされているので、二人の出会いはこのシリーズのような感じだったと思われます。扇谷上杉家の家宰として、主家の勢力拡大に辣腕を振るっていた頃の道灌ですので、まだ経験の浅い新九郎を手玉にとるのは簡単だったのかもしれません。

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レビュアーの一言

新五郎範満側と竜王丸・伊都側とは、太田道灌・伊勢新九郎の調停で、竜王丸が成人するまで、範満が当主となることで決着するのですが、15年後、竜王丸が成人しても家督が譲られなかったため、再び戦闘となります。この時、三度、新九郎が駿河へ下向するのですが、この語、後北条家の始祖となった新九郎によって滅ぼされたせいか、範満側はあまり良いイメージが残されていないのですが、本巻の感じでは常識人で、領国の安定を第一に考えたしっかりした人物として描かれていますね。

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