あさのあつこ「風を繍(ぬ)う」=縫箔屋の剣術娘は連続娘殺しの犯人をつきとめる

江戸で三代続いている縫箔屋丸仙の一人娘・おちえは、どういうわけか、名人と呼ばれる当代の主人・仙助の針の腕が遺伝せず、護身術がわりに修行している「剣術」の腕のほうで、通っている榊道場で「白竜」」と呼ばれるほどの腕前のお転婆な江戸娘。

そんな彼女が今気になるのは、「丸仙」に足しげく訪れてくる旗本の若侍で、といった感じで始まる青春江戸ミステリー「針と剣 縫箔屋事件帖」シリーズの第一作が『あさのあつこ「風を繍(ぬ)う」(実業の日本社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一 流水草花模様
二 秋草千鳥模様
三 藤花舟模様
四 唐草模様
五 蛇籠桜花文字模様
六 梅花模様
七 菊流水模様
八 花折枝模様
九 龍田川模様
十 小梅模様
十一 風雪飛鳥模様

となっていて、今シリーズが能衣装や芝居衣装、小紋に金銀糸や色糸で様々な模様の刺繍をする「繍箔屋」を舞台にしているせいか、章のタイトルも刺繍の柄行の名前になっています。管理人はこうした「伝統的なお洒落」な世界にはとんと縁がないので、それぞれの柄がどんななのか、は読者それぞれが調べてくださいね。

物語のほうは、主人公・おちえの実家「丸仙」へ、「吉澤一居」と名乗る二千石の旗本の次男坊が弟子入り志願にやってくるところから始まります。彼は長男が既に家の跡目を継いでいるので部屋住みの身分ではあるのですが、二千石の旗本といえば、いわゆる「大身」と呼ばれる三千石以上の高級旗本より家格は下とはいえ、遠国奉行をはじめ幕府の要職へも任官できるクラスで、いわゆる「旗本の若様」と言われる身分です。時代劇でいうと、真面目で立身出世をしていくか、乱暴狼藉で町娘を泣かして主人公に成敗される、どっちかの役回りの若者ですね。

そういう身分の侍が弟子入り志願をしてもまともに相手にされるわけはなく、「おちえ」の父で、縫箔屋・丸仙の親方である仙助も一言のもとに断るのですが、吉澤には何か深い理由がありそうで、といった導入部です。

事件のほうは、この丸仙の職人の娘・お信が母親の薬をもらうため、医者のところへ出かけたところを誘拐され、その後、喉を切り裂かれた死体となって発見されたところから始まります。実は数年前、おちえがまだ12歳ごろ、深川で五人の若い娘が同じように殺される連続殺人がおきていて、護身術として、おちえが剣術の町道場へ通うきっかけとなった事件が発生しています。この道場通いのおかげで、おちえは今では、「榊道場の白竜」と呼ばれるほどの手練れとなるほど剣術の腕が上がっているのですが、反比例するように、針の腕はあがらず、襷もまともに縫えない原因ともなっています。

愛娘が不慮の死を遂げたことで、すっかり意気消沈し、仕事をする気力を失っているお信の父母を元気づけるため、下手人探しにおちえが乗り出し・・といった筋立てです。おちえがこの捜査で頼りにする岡っ引きが「仙五朗」で、「おいち」シリーズでもでてくる腕利きの岡っ引きですね、

事件の手がかりがつかめないところで、神社の境内で、おちえは匕首をもった男に襲われるのですが、偶然、道場返りで「竹刀」を持っていたため、襲ってきた暴漢は不幸にも、と「おちえ」の大活劇が演じられるという「おまけ」もありますのでお楽しみに

そして、事件のほうは、おちえの通う榊道場の師範代・沢原が突然自害します。どうやら、お信が殺された事件以外にも、旗本・御家人の娘が殺された事件が二件あり、その被害者の一人と不倫関係にあったのでは、という密告があったらしく・・という展開です。沢原には妻子もいて、「おちえ」の印象ではそういうサイコパス的な殺人を犯す人物とも思えなかったのですが、ここで、丸仙にようやく弟子入りを許された一居があることに不審を抱き、事件の真相に近づいていきます。

Bitly

レビュアーの一言

「縫箔」の職人を主人公にした時代ものは、知野みさきさんの「神田職人えにし譚」があるのですが、本シリーズの主人公の一人「おちえ」は剣術の腕はたつのですが、針の腕はからっきしという、時代ものの娘役らしくないキャラクターなので、お話自体も、しっとりとした人情ミステリーというよりも、お侠な江戸っ娘ミステリーといった仕立てになっています。テイスト的には、「おいち」シリーズに似ていますので、町娘が元気に活躍する捕物帖のお好きな方におススメです。

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