警察官による麻薬摘発の偽装を暴け=大門剛明「正義の天秤 毒樹の果実」

都内有数の弁護士ファーム「師団坂法律事務所」の刑事弁護を専門に担当する「チーム1」に所属する、元ニート、元刑事、元裁判官という異色の過去を持つ3人の弁護士たちと、事務所の創設者の娘で真面目で甘ちゃんの弁護士・佐伯芽衣、そして、猟奇殺人犯に殺された恋人弁護士の復讐を心に秘めた元医師の弁護士・鷹野和也の5人が、持ち込まれた刑事事件の弁護を通じて、隠れている事件の真相を暴いていく弁護士ミステリー「正義の翼」の第3弾が本書『大門剛明「正義の天秤 毒樹の果実」(角川文庫)』です。

前巻までで、弁護士として一家惨殺事件の真相を追っていた元恋人を殺した連続猟奇殺人の犯人の弁護を引き受けることとなった鷹野が、麻薬所持、女性転落死などの事件を扱う同僚弁護士のアシストをして隠れていた事件の真相をあぶり出していきます。

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あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 毒樹の果実
第二話 シンデレラの靴
第三話 バベルの塔
第四話 歪んだレンズ
第五話 女神の右手

となっていて、第一話の「毒樹の果実」を担当するのは、真面目な努力家ながら、甘ちゃんな弁護士・佐伯芽衣です。依頼人は泉駿介という若手の人気俳優で、彼が車で帰宅中、コンビニでコーヒーを買って駐車場の車の中で休んでいたところ、警察官二人が職質をして来たのですが、そこで彼らが車の収納ボックスの中から覚醒剤のパケをみつけ、さらにコーヒーのコップの中からも覚せい剤が検出されたという案件です。

泉は、警察官による偽装で、自分は無実だと訴えるのですが、実は、泉は覚醒剤の常習者。彼は、その日はやっていないと芽衣にうちあけ、依頼人に不利となる覚醒剤常習の事実を隠蔽したまま、芽衣は裁判に勝利するのですが、その後、偽装をした警察官二人の勤務する交番を訪ねてたところ、その一人が自殺してしまうという事態に。その遺書のメモには強引な職質はやったが偽装はしていない、ということが書かれていて・・という筋立てです。

自分の弁護で偽装をしていない警察官に濡れ衣を着せて、無罪を勝ち取ったのか、と悩む芽衣に対し、鷹野が明らかにした真相は・・という展開なのですが、半年前に覚醒剤の所持容疑で、この二人の警察官に検挙されそうになって、逃げようとしてマンションのベランダから転落死した泉の親友が、事件の真相を明らかにする鍵となります。

第二話の「シンデレラの靴」を担当するのは、元刑事の梅津弁護士。依頼人は、日野勝次という男性で、歩道橋から池上倫子という初老の女性を突き落とした、という事件で、故意か事故が争点となっています。

実は、彼は20年前におきたクリーニング店の強盗殺害事件の目撃者で、彼の証言によってクリーニング店のアルバイト店員の衛藤杏莉という女性が逮捕されたのですが、証拠不十分で無罪となっています。その衛藤と今回の事件の被害者・池上が顔なじみなうえに、殺された店主は池上の同級生、クリーニング店のアルバイトを衛藤に紹介したのは池上だった、という関係です。さらに衛藤は事件後、転職もうまくいかず、自殺を図ったりしていて、今でも日野のことを恨んでいた、ということもわかります。

日野と死んだ池上が実は知り合いだったのでは、と梅津弁護士は疑いをもち、日野に問いただすとしぶしぶ認め、梅津に田舎にある自分の親戚の、空き家になっている家に行き、タンスの中のお金を処分してくれ、という依頼を持ち出します。梅津がそこへ行き、お金を確かめると、それはクリーニング店で盗まれた金に間違いなく・・という展開です。

日野が一番の悪党であるような印象を受けるのですが、最後のところで大きなドンデン返しがやってきます。

このほか、フィリピン人女性の証言が通訳ミスによって真逆の方向に捜査を誘導していくのですが、事件の真犯人がわかったところで、もうひとつの「通訳ミス」が明らかになる「バベルの塔」、ストーカー殺人事件の容疑者を、画像分析の専門家の鑑定を崩して無罪を勝ちとるのですが、実は真犯人と協力者にまんまと元ニートの杉村弁護士がのせられてしまった「歪んだレンズ」、鷹野弁護士が、元恋人の務めていた弁護士事務所の所長の娘の弁護士に翻弄される「女神の右手」が収録されています。

ちなみに、本巻では、元恋人を殺害した犯人の更生の気持ちを信じて、鷹野弁護士が感情を押し殺して弁護をすすめるのですが、これが見事に裏切られてしまいます。

正義の天秤 毒樹の果実 (角川文庫)
有名俳優が覚醒剤所持で逮捕された。本人は警察にはめられたと容疑を否認、師団&...

レビュアーの一言

第四話の「歪んだレンズ」にでてくる「三次元顔画像識別法」というのは、防犯カメラで撮影された犯人の顔が下を向いていたり、帽子やマスクで隠れていたりしている時に、被疑者の三次元の顔画像を撮影し、これを防犯カメラの画像と同じ角度、同じ大きさに調整して重ね合わせ、個人識別を行うシステムで、2016年段階で、警視庁ほか5県の警察で導入されているようです。

顔認証のシステムで有名なのは、なんといっても中国政府で、中国の多くの都市で、公共のカメラを利用して行方不明者を探したり、犯罪者を追跡したりするシステムが標準的に導入されているという情報があります。これには、人権抑圧への転用といった危険性を指摘する声も西側諸国からはあるのですが、中国と対抗しているアメリカの警察でも、独自の顔認識システムの導入が進んでいるようなので、「顔認識」による犯罪防止・摘発とそれと裏腹にある「監視」がこれから世界的に進んでいくような気がします。

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