「わたし」を殺した犯人を、生き返った「わたし」がつきとめる=辻堂ゆめ「いなくなったわたしへ」

NHKで連続テレビドラマ化された、井上祐貴・桜田ひより、西山潤・紺野彩夏の主演で、卒業式直前で誘拐されてしまった人気女性高校教師の行方と犯人を追う学園ミステリー「卒業タイムリミット」の原作者・辻堂ゆめさんが第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞した「夢のトビラは夢の中に」を加筆修正した実質デビュー作となる、オカルト・サスペンスミステリーが本書『辻堂ゆめ「いなくなったわたしへ」(宝島社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一部 出会い
第二部 泉の謎
第三部 生と死
第四部 二度目
エピローグ

となっていて、まず冒頭では、南アジアの、大英帝国の元植民地とあるので、おそらくはインドの奥地の村で、イギリス人の男性が、不思議な力を持つ「泉」に遭遇する酒器の抜粋から始まっています。この手記は、章の切れ目など物語が動くときに挿入されていて、物語全体の謎解きに影響しているようなので、主要なポイントは記憶しておきましょう。

物語のほうは、本巻の主人公である、シンガーソングライターの「上条梨乃」が東京の飲み屋街(作中には「センター街」とありますね。うらぶれた感じは渋谷よりも新宿のセンター街に近い感じです。)の裏通りのビルの脇にあるゴミ捨て場で意識を取り戻すところから始まります。彼女は着替えた覚えのないワンピースを着て、ゴミの詰まった袋を枕に寝ていたようなのですが、そこにやってきた記憶もなく、さらに彼女は酒は呑めない性質なので、泥酔して迷い込んだということも考えられません。なぜ、自分がここのいるのか訳が分からないでいる彼女は、近くのビルの液晶ビジョンに流れるニュースで、「自分が昨夜自殺した」と報道されているのを目にするのですが・・という始まりです。

この後、人通りの多くなった街の通りに出るのですが、彼女のことを、相当有名なシンガーで、マスコミ露出も多かったはずなのに、誰も「上条梨乃」本人であることに気づきません。しかし、たった一人、佐伯優斗という大学生の青年だけが、彼女が上条梨乃であることに気づいてくれ、梨乃は、彼の姉のマンションにしばらく泊まらせてもらうこととなります。

そして、梨乃は詳しい事情を知るため、彼女が所属していた芸能プロダクションを訪ねるのですが、そこでもプロダクションの社員や、梨乃のマネージャーをしていた女性も、誰も彼女が上条梨乃であることに気づかないままで・・という展開ですね。

この後、梨乃は、この芸能プロダクションにアルバイトに雇ってもらうこととなり、また、梨乃が飛び降り自殺をしたときに、現場近くにいて驚いて車道に飛び出し、車にはねられて死んだ「樹」という男の子に出会うのですが、彼も、家族から、生きている二もかかわらず、本人だと認識してもらえない状態になっています。

優斗、樹と奇妙な出会いをした梨乃は、優斗の知り合いの女子大生と偽って、優斗のバンドの臨時メンバーとして参加して音楽活動を始めたり、芸能プロダクションのアルバイトとして、梨乃の知り合いであった歌手や俳優、そして事務所の社長やマネージャーから、「梨乃」が自殺した真相を探っていくのですが、その事務所の人気歌手から、梨乃がデートに誘われたことから、彼女を攻撃してくる人物が出現し・・と展開していきます。

謎解き的には、物語の途中のところで、優斗のバンドメンバーである女性ボーカルが、怪しげな新興宗教に勧誘されて、水を封じこめた赤いガラスのブレスレットを梨乃にも勧めてくるエピソードが意外に後の謎解きに関連してきたり、梨乃の人のいい庇護者として役回りを果たしている優斗が、謎解きの本質のところに関わっていたり、と一見すると謎解きに全く関係ないと思えていたところに、意外な伏線が忍ばせてあるので、油断しないで読んだほうがいいですね。

少しネタバレしておくと、優しそうな人は、たいてい毒牙をもっている、というミステリーの定石には注意しておいたほうがいいですね。

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レビュアーの一言

本巻は主人公たちが、自らの不自然な死の謎を追及していき、自らに向けられていた隠された「悪意」とインドの奥地の村にあったとされる「輪廻の泉」に源をもつ新興宗教団体の暗躍を明らかにしていく、サスペンス・ミステリーが主軸なのですが、それと並行して、主人公が、自分を救ってくれた男子学生のバンドに参加して、学園祭ライブでの成功を目指す、という音楽小説、バンド小説の側面ももっています。このあたりには、筆者の大学時代の音楽サークルの経験やギターの弾き語りという趣味も生かされていて、演奏シーンの臨場感や、主人公の「梨乃」がバンド活動によって「再生」していくところは感動ものなので、謎解きとあわせてご堪能ください。

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