アノニマスの構成員の経験や元防衛省のサイバー担当の経歴をもちながら、違法すれすれの仕事のやり方や持ち前の「やり過ぎ」が災いして失職した「しのぶ」と、両親が行方不明になってから長い引きこもり生活を送っていた凄腕のハッカー「すもも」の二人が、経営する私立探偵事務所「Ｓ&Ｓ ＩＴ探偵事務所」に持ち込まれてくるネット犯罪やコンピューター犯罪の解決に挑むハッカー系コージー・ミステリーのシリーズ「S&S探偵事務所」シリーズの第一弾が本書『福田和代「S&S探偵事務所 最終兵器は女王様」（祥伝社文庫）』です。
あらすじと注目ポイント
収録は
第一話 お姉さんたちにまかせなさい！
第二話 こんなの朝飯前でしょ！
第三話 見えない敵にはご用心！
第四話 きれいなデマにはご用心！
第五話 勝負はこれからでしょ！
最終話 黙ってついてらっしゃい！
となっていて、まずはシリーズ最初とあって、本シリーズの主人公となる「出原しのぶ」と「すもも」こと東條桃果、そして二人が根城としている探偵事務所の様子が描かれます。「しのぶ」は赤いセルロイド縁の眼鏡をかけ、スーツにピンヒールというバリキャリ風、「スモモ」は両手の指で包み込めそうな細いウェストを奇妙な絵の描かれたタンクトップで包み、ホットパンツからすらりとした足が伸びていていて、喋る言葉はカタコトの日本語という不思議チャンキャラなのですが、二人ともハッカーとしては超一流という設定ですね。
まず第一話の「お姉さんたちにまかせなさい！」は、後に事務所の料理人兼留守番のアルバイトとなる「笹塚透」が、地元の友人の中・高校生から「キツネ」として追われているところを救出するところから始まります。彼を匿ったことから、透がいじめから守ろうとした子供が死亡してしまい、「しのぶ」と「すもも」は加害者のスマホをハッキングして復讐をしていくのですが、スマホを乗っ取って、LINEを使って加害者を追い詰めていくところは、圧巻です。
第二話の「こんなの朝飯前でしょ！」は、大手の自動車部品メーカーの営業企画部長のパソコンにハッキングして情報を盗もうとした人物を突き止めてほしい、という依頼です。一番疑わしいのは、自宅で引きこもりを続けている部長の息子らしいのですが、実はそこには、息子の両親への感謝を込めたある決意が隠されていて・・とう展開です。
第三話の「見えない敵にはご用心！」では、大手衛星通信会社の文書管理サーバーにランサムウェアが仕込まれ、社内の重要な設計書などが全て暗号化されてしまいます。犯人からは10万ドルのビットコインの身代金を払えばもとに戻す「鍵」を渡すという脅迫状が届きます。調査した状況から、仕込んだ犯人は「社内」の人間であることは間違いないのですが・・という展開です。少しネタばれすると「社内」の意味が微妙ですね。
第四話の「きれいなデマにはご用心！」では、東京の赤坂にあるセレブご用達の病院から患者情報を盗み出して週刊誌などにリークしている者がいるらしいという調査依頼が入ります。この情報漏洩は、病院のシステムに侵入したマルウェアによって盗み出されているようなのですが、このマルウェアはこの病院ばかりでなく様々なところに入り込んで情報を盗んでいる様子です。しのぶはこのマルウェアを逆用して、犯人を追い詰める方法をみつけるのですが・・という展開です。
さらに、この話の冒頭で、行方不明になっている「スモモ」の両親の情報がもたらせられるのですが、その情報提供者が殺されてしまっています。
第五話と最終話は、第四話の殺人事件をてがかりに、「スモモ」の両親が失踪した理由へと「しのぶ」と「すもも」が迫っていくのですが、どうやら「スモモ」の両親が経営していた会社に関わっている気配が濃厚になってきます。その会社は現在、「すもも」の叔父が受け継いでいるのですが・・といった展開です。流れからいくとこの「叔父」が怪しいのですが、コージーミステリーらしく、今まで善人と思われていた人物が意外な犯人、という定石は踏まえてありますので、真相は原書のほうでお確かめください。
レビュアーの一言
工学部出身で、ハッキングなどネット犯罪系の著作の多い筆者だけあって、コージー・ミステリーも理科系モードです。
ランサムウェアやマルウェアやシステムのハッキングなど、トリックや犯人をあぶりだす仕掛けもソレ系のデジタル用語が多くなっているので、機械系に苦手意識を持つ人は敬遠してしまうかもしれませんが、謎解きのアイテムとしては使われてはいても基本は女性二人の活躍するコージーミステリーなので怖れることはありませんよ。
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