高田崇史「七夕の夕闇」=牽牛・織姫伝承に隠された日本史の謎と姉弟の秘密が殺人を呼ぶ

東京の大学の理科系学部を卒業後、医薬品関係出版社「ファーマ・メディカ」が発行している医療系月刊誌の編集者をしている「萬願寺響子」が、知らずしらずに自身は苦手にする「歴史の謎」の巻き込まれていく萬願寺響子シリーズと毒草師・御名方史紋がその博識で歴史謎を解いていく「毒草師」シリーズとの合体版が本書『高田崇史「毒草師 七夕の雨闇」』です。

構成と注目ポイント

構成は

プロローグ
彦星
笹竹
牽牛
天の河
織女
羽衣
織姫
エピローグ

となっていて、事件の発生後、響子たちが京都へやってきてからは、筋展開が御名方+西田と刑事たちのやりとり、響子と文香たちのやりとり、一族の回想的なやりとりの三方向が並行しながら進んでいくイメージとなります。

まず事件のほうは、京都の竹河流能宗家・竹河幸庵が自宅の稽古場で毒殺されるところから始まります。死亡した竹河幸庵は、ほとんど毒が効かない体質っていうことになっているので、彼を殺した毒の正体は?っていうのが本巻での謎解きの一つになっているのですが、一般的には、毒を日常生活で摂取して、毒が効かない体質を維持している、という家系があること自体が怖い設定ではあります。

で、この毒殺事件の捜査を京都府警が進めていく中、幸庵の息子・敬二郎が同じように毒死しているのが発見されたり、竹河家の本家筋にあたる「星祭家」の当主である「逸彦」が物置で焼身自殺を遂げたり、逸彦の息子の 「雄輝」が頭を殴打されて昏倒しているのが見つかったり、竹河・星祭一族の間で連続殺人・傷害事件が続いていきます。

そして、萬願寺響子は、この星祭家の娘の依理と文香と仲が良く、彼女たちを慰めるために京都へ出向くことにするのですが、この一族が七夕の織姫を祀っている「機姫神社」を祭神人としていることから、響子の同僚・西田の縁をつたって、毒草師・御名方史紋もそこに同行する、といった筋立てです。実は響子の上洛には、親友・文香を元気づけるという表向きの理由のほかに、「大人の事情」も隠されているのですが、ここは原書のほうで確認してくださいね。

で、京都に着いた響子・御名方たちは、京都府警の刑事たちに邪魔者扱いされながら、事件の真相に迫っていくわけなのですが、そこには「七夕」に隠されていた歴史上の謎が大きく影響していて・・といった展開です。

この歴史上の謎のほうを少しネタバレしておくと、平安貴族たちは実は、牽牛と織女が出会うことを望んでいなくて、和歌で二人が雨で会えないことを詠んでいたのは、言霊を信じていた彼らは、あえて「会うこと」が実現しないようにするためだった、とか。牽牛=蘇我氏、織女=秦氏を意味していて、この二大渡来人勢力が協力しあうことを、藤原氏が警戒したのが織姫伝説、といった秘話好きの歴史ファンであれば垂涎ものの「奇説」が飛び出してくるので、おそらく、本巻の謎解きとは別にワクワクすること間違いなしです。

付け加えておくと、「奇説」はこれだけではなくて、もっと驚く説が、事件の謎解きに絡んでいるので、そこは原書のほうでどうぞ。いつもの高田崇史的な「歴史秘話ミステリー」が展開されています。

レビュアーの一言

今巻では牽牛と織女の話が謎解きの主テーマとなっているのですが、星座的には、織姫が琴座の「ベガ」、牽牛がわし座の「アルタイル」に擬せられています。二つの星の距離がどのくらいは検索してみると、おおよそ14光年から15光年の離れているそうで、1年に一度とはいかないようですね。ただ、恒星の寿命は数十億年から100億年といわれていますので、星の寿命の間には何度も会える計算にはなるのですが・・。

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