老人の事故死に隠された「連続オレオレ詐欺殺人」を暴け ー 吉川英梨「レッドイカロス」

女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に凶悪な犯人たちを相手に活躍してきた「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が、活躍の舞台を警視庁捜査第一課八係にうつしての初めての物語が、本書『レッドイカロス 警視庁捜査一課八係 警部補・原麻希』である。

前巻で、有名テロリスト・アゲハの再逮捕のために、罠をしかけた公安部のかつての部下たちの犯行を暴いたのだが、その責任をとらされて降格された広田警部が係長を務める、捜査一課八係に異動した麻希が、原田警部補、鍋島巡査部長といった今までの捜査仲間と新人の手塚巡査部長とともに、現代を象徴する凶悪犯罪に挑んでいくのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 米村さんごめんなさい
第二章 狐
第三章 もう老害なんて言わせない
第四章 七ツ獄
第五章 イカロスは堕ちた
第六章 命
エピローグ

となっていて、まずは、今巻の舞台の2019年から34年前の純金取引の詐欺事件を起こした会社社長の殺害とそれに伴う会社の取り付け騒ぎ「西柴商事事件」が描かれる。これが、この巻の事件の伏線となるので登場人物とかを覚えておくとよいかも。

で、本筋のほうは、今巻から捜査一課八係のメンバーに加わる、手塚巡査部長の異動シーンから開幕。ここで前作の「蝶の帰還」以後のsj¥女性犯罪捜査班関係のメンバーのその後が紹介されるとともに、テロリスト・アゲハの捜査でいろんな関わりをしてきた宝船法務大臣から、麻希に、最近都内で頻発している「老人孤独死事故」の死因を再捜査しろ、と命令が下ります。いずれも、風呂場での溺死、心不全、転倒での頭部外傷による死亡で、死亡時は密室、部屋には多額の現金が残されていて強盗とも思えない、というもので、事件性は微塵もないようなのですが、一体なぜ再捜査を?といった展開です。

もちろん、広田警部や麻希の「八係」が捜査に乗り出すと、この死去した老人たちが、ロストジェネレーションの青年の就労活動を援助するNPOと何らかの関わりがあることがわかってきて、さらには、自宅内の残されていた現金が、実は老人たちが貯めていた「タンス貯金」の一部で、総額はもっと多かったことがわかってきて、といったことが判明してきて、この老人孤独死事故が、オレオレ詐欺+連続強盗殺人事件ではなかったのか・・という新たな様相を呈してきます。
さらには、今巻で登場の新人・手塚が、「プロローグ」ででてきた詐欺事件の関係者との関わりも掴んできて、一挙に事件の重大性が増してきます。そして、単独で「西柴商事事件」との関連を捜査していた手塚は、その本命に辿り着くのだが・・・ということで、大アクションシーンに発展していきますので、ここらは原書でお楽しみを。

そして、いつも見当違いな捜査を繰り広げてくれる「鍋島」くんは、今回も、この事件が、近くに太平洋戦争直後まであった稲荷神社に関係しているのでは、と稲荷信仰の関係者の調査に没頭し、新人の手塚にも愛想をつかされてしまいます。ところが、実はこの捜査が的を得ていて・・・といった驚きの展開もあるので、ここも読み逃せませんね。

最後のほうで、このシリーズで、これから麻希たちが戦うであろう「巨悪」も登場するので、ここも注目です。

【レビュアーから一言】

今回捜査一課八係に異動してくる新人の手塚巡査部長は、深入りせずに仕事に取り組む、足をつかった聴き込みよりも、まずスマホでネットを史tらべたり、SNSで情報を集める、といった「現代青年」で、昔ながらの気質の「広田警部」と衝突したり、麻希も彼が刑事捜査に馴染むのかハラハラする、といった設定なのですが、物語が進行していくにつれ、熱血刑事に変身していくので、その変化を追っていくのも一興です。もっとも、そのせいで婚約者との仲は微妙になっていくのですが・・・

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