豪華客船のシージャックの目的は東京湾汚染テロ? ー 吉川英梨「朽海の城 ー新東京水上警察3」

東京オリンピックでの東京湾の海上で起こる犯罪を取り締まり、警備を万全にするため、5年間の期限付きで復活した「五港臨時署」の刑事防犯課強行犯係を主舞台に、羽田沖日航機墜落事故のトラウマを抱えた40歳過ぎの凄腕の中年刑事・碇拓真、碇の部下で上昇志向丸出しの若手刑事・日下部俊、美しすぎる海技職員として、モデルばりの美貌ながら熱血の「海の女」有馬礼子をメインキャストに、東京湾上でおきる大事件を爽快に解決していく警察小説「東京湾水上警察」シリーズの第3弾が『吉川英梨「朽海の城」(講談社文庫)』。

前巻までで、水上警察のオープニング式典でのテロ事件の阻止や、台風の号風雨が吹き荒れる中で、半グレたちとクレーン船での死闘を繰り広げ的な「碇」たちなのだが、豪華客船上で起きた殺人事件の捜査に始まり、シージャックされた船による東京湾汚染を阻止しようとする活躍が描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 豪華客船セレナ・オリンピア号
第二章 沈没
第三章 総員退避
第四章 死の海
第五章 代弁者
第六章 封鎖
エピローグ

となっていて、前巻で江東区の水門閉鎖による水害の責任をとって辞任した都知事の後をうけた新都知事が、豪華客船セント・オリンピアに乗船しているシーンから開幕。新都知事・鷲尾賢一郎は、老舗の商船会社のオーナー社長で政治にはド素人だったのだが、目立つパフォーマンスと豊洲市場の汚染水問題、水上警察署の廃止を公約に、有力対抗馬の女性候補者に選挙戦を競り勝って当選した、という人物なのだが、その言動故に敵も多く、不支持率が今までの都知事の中で最高、という設定ですね。

で、その都知事の乗船するセント・オリンピアから通報があり、それが支持する海域を調べると、セント・オリンピアの進水式で使われた支綱切断の斧が突き立てられた男の遺体が発見され、その被害者と生前トラブルがあった男・飯村が船に乗り込んでいることが判明する。その男は娘が被害者に拉致され、セント・オリンピア号の船底に殺されて遺棄されていると主張していたのだが、というのが第一の事件。そして、セント・オリンピアの船内ではシャワールームでガソリンをかぶり焼身自殺した乗客が発見され、彼が残したDVDには、セント・オリンピア号がテロリストに狙われていて、同じく機関室の真下の二重隔壁のなかに爆弾がしかけられているという映像が残されていて、というのが第二の事件である。

これらの事件の捜査をするため、セント・オリンピア号に碇と日下部たちが乗り込もうとした時、セント・オリンピア号の操舵室がシー・ジャックされ、都知事の秘書官を務める実弟の鷲尾聡二郎が人質になる。当初、娘を誘拐されたと思われていた飯村が娘の遺体を探させるためにシージャックをしかけたと疑われるのだが、その娘は生きて別の場所にいることが判明する。一体、犯人の目的はなにか霧の中状態になる中、犯人が客船に乗り込んでいる乗客をすべて解放する、と宣言し、都知事と船の乗組員、そして碇たち刑事以外はすべて、下船する。
そして、この状況で犯人たちは、セント・オリンピア号に福島原発の高濃度放射性廃棄物を取り除くのに使われた逆浸透膜フィルターが船のバラスト水浄化装置のフィルターと交換されていることを公表する。このまま、海水を汲み上げ、浄化すれば、船内の大量のバラスト水が高濃度の放射能に汚染された状態で東京湾に放出されることになる。それを防ぐ条件は、鷲尾都知事が素手で、このフィルターを取り外すことだ、と彼らは脅迫してくる。さて、碇、日下部、有馬たち水上警察のメンバーは、この事態をどう打開するのか・・・、といった展開です。

もちろん、犯人からの脅迫に水上警察のメンバーが屈するわけはなく、犯人が人質をとって立てこもっている操舵室への突入した後、犯人との船内でのバトルや、さらには、コントロールを失って暴走を始めるセント・オリンピア号が、レインボーブリッジに激突するのを防ぐため、礼子が舵をとるシーンなど、シリーズの他の作品と同じく、迫力あるアクションシーンが満載なので、そこらは原書のほうでお楽しみください。
さらには、水上警察を潰そうとする、金持ちで態度の悪い、「史上最高の不人気都知事」の鷲尾都知事が想定外の「男気」を出してくるのので、その豹変ぶりも驚きの展開であります。

【レビュアーから一言】

ちょっとネタバレすると、このシージャック事件の黒幕は、鷲尾都知事の実弟で秘書官を務める鷲尾聡二郎なのですが、彼がこうした犯行を思いついた動機は、いつも晴れがましいところを独占してきた実兄への嫉妬、といった黒い感情のためか、と思わせておいて、まさかの・・・といった筋立てで、冷酷な上昇志向の持ち主の野望が判明してきて、おもわず唸ってしまいます。選挙の必勝パターン・弔い合戦もこういう形になると、かなり「カライ」ものに感じますね。

【関連記事】

東京湾「第六台場」の射殺死体の謎を解け ー 吉川英梨「波動 新東京水上警察1」

台風下の東京湾での凶悪犯罪を阻止せよ ー 吉川英梨「烈渦ー新東京水上警察2」

コメント

タイトルとURLをコピーしました