過去に廃止され、「湾岸署」に統合されていたものが、東京オリンピックでの東京湾の海上で起こる犯罪を取り締まり、警備を万全にするため、5年間の期限付きで復活した「五港臨時署」の刑事防犯課強行犯係を舞台にした警察小説の第2弾が『吉川英梨「烈渦ー新東京水上警察2」(講談社文庫)』。
前巻では、強行犯係の配属された剛腕刑事だが「水恐怖症」(正確には東京湾恐怖症)の「碇」と本庁から転属させられたことに不満をもち、なんとかして本庁復帰を狙う「日下部」、モデルまがいの美貌と相当な気の強さをもった「有馬礼子」の三角関係と、東京湾の「第6台場」で見つかった腐乱屍体の謎がテーマであったのだが、今巻は、その三角関係のその後と、前巻でその姿を見せた、東京湾を根城にする犯罪組織「湾岸ウォリアーズ」との闘争が描かれる。
【構成と注目ポイント】
構成は
プロローグ
第一章 密室
第二章 発生
第三章 談合
第四章 上陸
第五章 首都水没
第六章 殉職
エピローグ
となっていて、まずは東京湾に係留され船の博物館のようになっている、南極観測船「宗谷」の地下一階の船尾近くの元居住室のベッドの上から、トランクス一枚の裸の状態の男の腐乱死体が見つかるのが第一の事件。しかも、死体が見つかった部屋のガラス張りの木枠の扉は外から鍵がかけられていて、その鍵は被害者が脱いで室内にあったスラックスのポケットに入っていた、という密室状態である。本格ミステリーであれば、その謎解きがメインになるのだが、このシリーズでは、そこはちょっと脇に置かれてますね。
捜査のほうは、この密室殺人事件の被害者で、宗谷のボランティア観光ガイドをしていた男の夫婦関係が険悪であったことから、その妻に嫌疑がかかるのですが、東京オリンピック関係の工事で宗谷の移転が必要となり、その工事を、今まで東京湾内の工事経験のないゼネコンが落札した、といったことを発端に、事件の前に、前話でピストル密輸などを企んだ上、「五臨署」オープンの式典のテロ未遂事件で黒幕であった「湾岸海洋ヒューマンキャリア」の社長・上条謙一が被害者と会食をしていたことが明らかになります。どうやら宗谷移転工事には談合の疑いも浮上し・・・といった感じでかなりキナ臭い展開になっていきます。
さらには、この宗谷で、調度品が盗まれる盗難事件が発生していて、その犯人らしき男も、「湾岸海洋ヒューマンキャリア」と関係していて、といった感じで、何か大きな「組織犯罪」が隠されている色合いが一挙に強くなってきますね。
ところが、五臨署の碇たちが、自分の会社の目をつけていることを察知した「上条」たちは、接近してくる台風の最中に船を東京湾上に出して、そこで今回の犯行の秘密を握る者たちを始末しようと企みます。台風が近づけば、五臨署は防災体制にはいるため、捜査と防犯に割ける人員がほとんどいなくなることを見越しての計画です。
そして、これを知った、碇と有馬は、署内の反対を無理やり押し切って、警備艇を出出航させ、かれらの犯罪を防ごうと現場の海域に乗り込み・・・といった感じで、東京湾上での大バトルが展開されるのですが、これはかなり迫力ありますね。
加えて日下部のほうは、ビルの地下に監禁されている談合に関係した男を逮捕するために向かうのですが、台風での浸水に巻き込まれ、怪我をしているその男の救出と、ビルの近隣の住民たちの救出も必要となってきます。ところが、東京湾の水門が閉鎖されたままなので、水の勢いは衰えず、江東区一体が洪水に巻き込まれることとなり・・、といった感じで、東京湾上でのバトルと、江東区での住民救出と二重のアクション・シーンが展開されることになり、かなり豪華なアクションシーンが後半の読みどころとなっています。
【レビュアーから一言】
東京オリンピックの警備強化のために復活した「五港臨時署」は、分離元の「湾岸署」の警察官たちからは、「オリンピック署」と悪口をいわれているのですが、今回は、そのオリンピック会場を台風被害から守るための都知事の判断で、日下部はじめ江東区の住民が大きな災害被害にあってしまうこととなります。古来より、天変地異は為政者の不徳の現れという話もあるのですが、最近の災害多発は、どう考えておくべきなんでありましょうか。
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