警視庁53教場籠城の女性脱獄犯の狙いは何?ー吉川英梨「聖母の共犯者」

吉川英梨

捜査に直接タッチすることがなく、捜査の現場から少し軽く見られがちの「警察学校」をへ、元本庁捜査一課の敏腕刑事でありながら、ある事件の責任を取らされて異動させられた新米教官「五味京介」をメインキャストにすえて、彼が、同期生で、妻の元恋人・高杉哲也、五味を慕う美人刑事・瀬山綾乃、五味の義理の娘・五味結衣をサブキャストに「捜査権のない警察官」が事件捜査する警察ミステリー「警視庁53教場シリーズ」の第三弾が本書『吉川英梨「聖母の共犯者 警視庁53教場」(角川文庫)』です。

前巻で元プロ野球選手射殺事件の謎を解いたのですが、担当していた学生の不始末のため、警察学校残留となった「五味」が、今回は、実子の殺人は冤罪だと訴える女性脱獄犯と彼女の協力者がおこす「警察学校籠城事件」に立ち向かいます。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 女囚
第二章 教場の拡声器
第三章 川路広場の銃弾
第四章 不良品
第五章 追われた者たち
第六章 凶悪な聖母
エピローグ

となっていて、前巻「偽弾の墓」で、一人の脱落者も出さずに全員を卒業させるという目標を掲げたにもかかわらず、実の父親の素行の悪さによる退校者と、拳銃不正使用の逮捕者を出して打ちひしがれていた「五味京介」だったのですが、今巻では、犬猿の仲であった長田教官とも和解し、その補助教官として再スタートを切り、加えて五味にあこがれている綾乃との仲も順調に進展しているようです。

さらに、五味の同期生・高杉と、彼の実の娘ながら今は五味の娘の「結衣」とが無事、再会を果たし、今巻は二人の「親娘デート」でまいあがる高杉なのですが、一方で「警察学校」のほうでは、父親の急死によって家業の造船業を継ぐため、警察官の道をあきらめようかと悩む学生の相談を受けたり、現在は同じ教場を担当している「長田」の肝臓の病気が急変して緊急入院したり、と明暗がくっきり分かれる滑り出しです。

◇女性脱獄犯、警察学校へ立て籠る◇

今回の事件の発端は、警察学校の近所にある府中刑務所での、女性受刑者の脱獄から始まります。その受刑者は、もともと、実の息子を衝動的に殺してしまったことで服役していたのですが、裁判の時から無罪を執拗に訴えていたという設定です。

その受刑者が服役中の刑務所でうつ病を発症した上に拒食症となったため、医療刑務所の移送されることになったのですが、なったのですが、その機会を狙って脱獄をし、さらには、警察学校の高杉と学生三人を人質にして、警察学校へ立てこもります。彼女は、自分が服役することになった事件が冤罪で、その真犯人を連れてくるよう要求するのですが・・・、といったのがまず第一段階の展開です。

この脱獄までの拒食症偽装とか、刑務所外の協力者と段取りや逃亡先を情報交換するやり方とか、かなり考え抜いた手法が使われているので、ここらは本書でたっぷり読んでもらったほうがいいですね。

◇籠城は偽装?高杉は共犯者か?◇

この立てこもり犯を警視庁の沽券にかけて制圧しないといけないと、本庁の捜査一課とSITが投入されてきます。本庁の捜査一課は、「五味」の古巣なのですが、彼を警察学校へ押し込めたかつての上司の捜査一課長・本村警視正や、かつての部下・岡本とのやりとりでは、かなりの火花が散っています。「五味」への彼らの嫌味も相当で、結構な「ヒール」を演じているのですが、「五味」へ大量の食糧の買い出しを命じるのは嫌がらせではなくで、実は校外で捜査をさせる名目として用意したものであったり、と本村警視正の「策士」ぶりが意外に光りますね。

そして、満を持しての「突入」となるのですが、部屋の中に、立てこもり犯と人質の高杉たちの姿はありません。しかも、警察学校の内部事情をよく知っていることや、SITの赤外線探知の攪乱、さらには逃走経路上に設置されている監視カメラの電源を切っていく高杉の姿などから、彼がこの脱獄犯の協力者では、と疑われ・・・という展開です。

◇四年前の事件は冤罪?真犯人は誰?◇

脱獄犯・赤倉紘子が罪に問われた事件の再捜査には、五味の恋人となった綾乃があたっているのですが、当時の杜撰な捜査の様子が明らかになってきます。当時、赤倉紘子の今は離婚した夫と彼の再婚した隣人のシングルマザーとが、長い間不倫関係にあることがわかったり、子供の死因が突き飛ばされて台所のテーブルに頭をぶつけたのではなく、夫のつくった汽車の木のおもちゃによるものであることがわかったり、と真犯人が本当に「赤倉紘子」であったのか疑わしいこともでてきます。

さて、4年前の事件の真犯人は誰なのか、そして、警察学校に籠城し、そこを抜け出した紘子たち脱獄犯と人質の高杉たちはどうなるのか、といった感じで物語が動いていきます。
どんでん返しにどんでん返しを重ね、そこにまたどんでん返しが重なって、という感じで、筆者は読者を振り回していきますので、振り落とされないようについていきましょう。

【レビュアーからひと言】

警察学校でおきた脱獄犯籠城事件の現場にやってきて陣頭指揮をとるとともに、4年前の事件の再捜査を命じる「五味京介」のかつての上司・本村警視正の捜査判断は、籠城事件の重要さを表すものと思わせておいて、そこに隠された「意図」がわかると「おーっ」と彼のさらなる出世を実現するための「策謀の深さ」にびっくりしましたね。

もっとも、その上司の「捜査一課に帰ってこい」という誘いを断りながら、

「残念ではありませんよ。俺はいずれ必ず、捜査一課に戻ります。でもいまじゃない。それだけだ」

と答える「五味」の本音を知るとますますその野太さには爽快感を感じたところです。

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