吉川英梨「警視庁53教場」ー20年の時間差でおきる警察学校の警官自殺の謎を解け

吉川英梨さんの描く「警察ミステリー」の主人公となる男性は、中年にさしかかってはいるが、女性の心を惹きつける何かをもっているのだが、生い立ちであるとか家庭であるとかにトラウマを抱えている、という設定が多いのだが、この「警視庁53教場」のメインキャストの一人・五味京介も、死別した妻の連れ子と同居していて、ハードな警察官の仕事をしながら義理の娘の養育をしているシングルファーザーという設定です。
本巻は、警視庁のエリート刑事である彼が、警察学校の教官になぜなったのか、というあたりや、彼の義理の娘・結衣の実の父親は・・・、といったところが描かれるシリーズの幕開けの巻です。

【あらすじと注目ポイント】

構成は

 プロローグ
 一二八一期 守村教場 Ⅰ
 一一五三期 小倉教場 四月
 一二八一期 守村教場 Ⅱ
 一一五三期 小倉教場 五月
 一二八一期 守村教場 Ⅲ
 一一五三期 小倉教場 六月
 一二八一期 守村教場 Ⅳ
 一一五三期 小倉教場 八月
 一二八一期 守村教場 Ⅴ
 一一五三期 小倉教場 八月Ⅱ
 一二八一期 守村教場 Ⅵ
 一一五三期 小倉教場 卒業
 エピローグ

となっていて、まずは警視庁の警務部主催の、独身現職警察官限定の「公式」婚活パーティーのところからスタートします。ここで、登場するのが、本シリーズのメインキャストとなる「五味京介」と瀬山綾乃の二人で、五味は40歳前後で警視庁本庁の捜査一課の主任という、ノンキャリアでは超エリート。瀬山は府中警察署の刑事課強行犯係勤務で、婚活よりも本庁への引き抜きを狙って五味に接近してきている「上昇志向」バリバリの美人の女性刑事、という設定。さらに、ここに京介の亡妻の連れ子で、

黒いおかっぱ頭の少女が背中の小さなリュックの肩紐を両手でぎゅっと握りながら、冷やかし顔で近づいてきた。背が高いせいか、一見すると女子大生ぐらいに見える。

という「小6(小学6年生)」の「結衣」といった面々が登場します。

事件のほうは、調布にある「警視庁警察学校」の近くの廃止された都営団地で、警察学校の教官・守村が縊死しているのが発見されるのが発端となります。

この守村という教官は、メインキャストの五味と警察学校の同期で、東北大震災の時に福島県に災害派遣で赴任していたときにPTSDとなり、最近はかなり精神状態が不安定だったと、彼の警察学校の同僚・高杉が証言します。

しかし、守村はその日の朝も元気に出勤していて、自殺する気配はなかったという妻の証言や、首を吊ったロープが「もやい結び」になっていたり、現場に不自然な痕跡もあって、五味と瀬村が捜査に乗り出すことになります。さらに検死解剖した「守村」の体から「筋弛緩剤」が検出されたり、守村の担当していたクラスの出席簿に、守村や五味たちと警察学校の同期で在学中に自殺した男性警官の名前が記入されているのが発見されます。昔自殺した、この警察官と守村教官の死とが何か関係しているのか・・といった展開で、現在と五味や守村が在籍していた当時の警察学校での話が、行きつ戻りつしながら進んでいくこととなります。

この守村と五味が警察学校の同期であるばかりでなく、守村が死ぬ前に電話をかけていた本富士警察署の臼田刑事課長、守村の同僚の高杉助教とも警察学校の同期である上に、五味の亡くなった奥さんも警察の関係者のようで・・といった展開で、内容的には、警察内部でおきた事件の謎解きで、大きな犯罪組織や社会悪といったものが絡んでくるものではないですが、警視庁の警察学校という、閉鎖的で秘密がいっぱいありそうで、さらに序列の厳しい権力社会での展開なので、アクションシーンはないながら、封印されているものがバランとでてきたり、ハラハラドキドキの筋立てが楽しめます。

警察ものらしく、警察内部の不祥事を隠蔽しようとする上層部との対決となっていくのですが、五味を慕う綾乃の乱暴な行動が事態を大逆転していくので、最後まで目が離せないですね。

【レビュアーからひと言】

警察学校ものというと、2019年の冬に木村拓哉さんの主演でTVドラマ化された、長岡弘樹さんの「教場」というミステリーがあって、そちらのほうは、新米警察官たちの成長と挫折ストーリーなのですが、こちらの「53教場」のほうは、在学中に同僚警官とデキちゃって退職してしまう女性警官や、殉職警官の息子の歪んだ行動とか、あるいは警察上層部による内部の不祥事の揉み消し工作とか、かなり生臭い仕立てになってます。

さらには、五味の義理の娘が大人びているのに「小6」である理由とか、かなり盛りだくさんの物語ながら、テンポよく展開していくので、一気呵成に読めるミステリーに仕上がっています。

Bitly

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