定食めぐり、あちこち ー 今 柊二「旨い定食 途中下車」(光文社新書)

食物記あるいはB級グルメ本は、旅本あるいは旅ブログに似ているというのが私の印象で、それは料理やメニューの紹介ではあるのだが、それが本当の主役ではなくて、その周辺環境である「飲食店」「街の佇まい」といったものが本当の主役で、とりわけB級路線の場合はその色合いが強いのが、バックパッカー本や貧乏旅行の沈没旅などに似ているのかもしれない。
そうした貧乏旅行のライター名書き手といえば下川裕二さん、たかのてるこさん、蔵前仁一さんなどなどがでてくるのだが、B級グルメ本ではと言って挙げられる一人が、本書の筆者である今柊二氏であることは間違いないだろう。
で、本書は筆者お得意のジャンルである「定食」しかも横浜、東京の首都圏から関西、札幌の鉄道沿線の「定食屋」というなんとも豪華な舞台仕掛けである。
とりあげられる路線は
東急東横線・・渋谷、並木橋、学芸大学、元住吉、菊名、新太田町、桜木街
東急大井町線・・大井町、旗の台、大岡山、自由が丘
京浜急行・・国際線ターミナル、新逗子、南太田、生麦、蒲田、品川
京王電鉄・・新宿追分、笹塚、聖蹟桜ケ丘、京王城之内、渋谷、明大前、吉祥寺
西武鉄道・・西部新宿、武蔵関、上石神井、椎名町、江古田、国分寺
などなど(阪急電鉄、札幌市電、函館市電、東急世田谷線、阪堺電気軌道もラインナップされているのだが、ちょっと省略。読みたい人は本書で)
出演する定食は「トンテキ定食」「チキンカツ定食」「肉ニラ玉子炒め定食」といったご飯+味噌汁+おかずという定食のレギュラーから「カレーとしな蕎麦セット」「ネギトロ丼セット」といった曲者系から、「ポラタセット」「芋ようかん」といった反則技まで多士済済である。
で、その演技というと、渋谷「東京トンテキ」のトンテキ定食のくだりでは
つづけてトンテキ。さすがは200グラムあるだけあって大きいね。黒っぽいタレがかかっていて、たっぷりのキャベツともやしも添えられている。・・肉を切って頬張ると、豚肉の油ギッシュなパワーとタレの力強さ、さらに添えられたガーリックチップで目を見開くほどのおいしさ。「kりゃたまんないね」と思いつつ、コメをバババと食べる。
といった具合で、乙にすました上品さは微塵もなく、ただただ「定食」の庶民的な魅力が伝わってくる文体である。
総じて、「定食」というものは人口の多いところ、それも勤め人や学生といった、懐具合はちょっと寂しいが食欲は旺盛といった人の多いところで磨きがかかるもので、その意味で本書で取り上げているところは磨き上げられる環境抜群といったところだろう。沿線の住人ではないのだが、出張時の重要情報としてチェックしておかねば、と思う食堂の定食情報満載である。

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