古書街に定食の匂い漂う ー 今 柊二「定食と古本」(本の雑誌社)

編集者にして「定食研究家」である今 柊二さんの基点ともいうべき、定食と古本屋ついてのエッセイ的な紀行。
構成は

第一部 定食と古本の旅

 神保町定食 三十六店定食めぐりの巻
 東京あの街この街 思い出の古書店と定食
 千葉三都市ブックオフめぐり
 札幌古本道中
 盛岡・函館古本屋叙景
 関西古本三都物語
 宮崎古書とチキン南蛮の旅
第二部 定食と古本と私
 古本人生・黎明編
 定食と古本のほうへ
で、神保町をはじめ古書街めぐりとその街の特色ある定食屋の数々。
学生やサラリーマン(ビジネスマンではないですよ。もっと泥臭いところを抱えた「サラリーマン」。)が多い街には、良質の定食屋が多いというのは一種の定理のようなものだが、本書を読むと、古くからある古書街だけでなく、古書店の近くには、良い定食屋があるというのもかなり確率の高いもののようだ。おそらくは、街の滞在時間の長さと、それと比例しての外食人口の高さ、また食欲の旺盛さが定食屋を育てるのだろう(古書街を出物を探してブラつくには体力がないと無理だし、買い物後には食欲もでるよね)。
で、今さんの定食本で、なんとも笑みがこぼれてしまうのは、当然、定食の大盛り。例えば、神保町「さぼうる2」のエビピラフセットの
具は、エビ、玉子、玉ねぎ、そしてマッシュルーム。とてもよく炒めてあって、食べているとホカホカと素朴に美味しい。ご飯のなかには、ときどきショッパイかたまりがあって、それが味のメリハリとなってさらにおいしいのだった。そしてサラダの存在も大事。エビピラフは味の変化があまりないので、ときどきレタスなどを食べて気分を一新するために貴重なのだった。サラダを食べつつガシガシとピラフを食べ続ける。いやあピラフは「勢い」がうまいのですよ

 

「神田餃子屋本店」のレバにら定食に餃子が三個セットになった半餃子セット
 
まずはスープを飲む。これは普通の中華スープ。続けてレバにら。ものすごいボリューム。レバー、にら、もやし、玉ねぎ、キクラゲが入っている。
早速、食べると、レバーしっとり、にらでパワー満タン、もやし、玉ねぎサクサクという感じで激しくおかず力があるので平皿のご飯をパクパク食べていく。味付けもなかなかバランスが良くていいね。おかずのほうが勢力が大きいので、ご飯を控えめに食べないとね

 

といったあたりには、思わず生唾を飲み込んでしまう。


さらに、本書でほほうと思ったのが、ラーメンを食べるくだりで、ほとんどの場合に、麺をかき混ぜてからスープを飲む、というところ。例えば、「北京亭」日曜ランチのラーメンと半炒飯では

ラーメンには野菜と細切り肉がたっぷりとのっているよ。まずはグルグルとかき回してスープを飲む。すっきりとした醤油味で、チェーン系にはないおいしさ。。・・・一方麺は細めんで絶妙の茹で加減だ。ムムムと思って、今度は野菜を食べると、これが炒めすぎでもなく生でもない。野菜のシャキシャキ感が存分に楽しめる炒め具合。
であるし、「徳萬殿」のスゴイランチでは
 
「餃子は後から」といわれて、まず出てきたのが、ラーメン、半チャーハン、ザーサイ。半チャーハンは小ライス用の器に入れられているがこぼれんばかりの大盛りで、全然半チャーハンじゃないんですけど。
・・・まずラーメンのスープをよくかき混ぜ、麺をほぐして、スープを飲む。醤油系すっきりだけど濃厚な味。麺は細くスープとよく合うなあ。
といった具合で、最近のラーメンを扱ったグルメ番組では、とにかくレンゲをいれて最初にスープを飲む画面が多いのだが、こうした定食系のラーメン屋はちょっと麺をほぐして、よく絡めてからスープを飲むっていうのが街場の定石ではあるな、と思いいたす。
第二部は作者の半生記というか、子供時代、学生時代の故郷 今治の思い出話。
妙にご当地ネタがあって、入り込めない人もいるだろうが、今治の重松飯店の、ご飯の上に焼き豚を置いて、甘い醤油タレをかけ、藩儒の目玉焼きをその上に置いた「焼豚玉子飯」とか唐揚げにした豚肉に青菜と玉ねぎの「あん」をかけた「肉飯」やら、小川ベーカリーの「メランジェ」「コーンパン」とか、残念ながら私は現物をしらないのだが、魅力的な食べ物の思い出話を楽しんでみよう。
 
筆者は「安い方から二番目の定食が一番旨くてオススメ」という名言を他の本でしているのだが、本書の名言は、札幌の北大そばの「味処 富士屋」牛カルビの日替わり定食
付け合せのトマト、キャベツもうれしい、そしてなによりもきゅうりの入ったスパサラダもついている。よし、これはデザート的に食べようと思って、まずパセリをかじったのだった。ああ、やはりうまいな(良い店はパセリがうまいのだ。)
といったところであろうか。細部に手抜きのないものはやはり“光る”のだ。
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