ご馳走は”とんかつ”で決まり ー 今 柊二「とことん!とんかつ道」

定食、そば、丼と日本人の琴線に触れるものの次は、やはりおなじみの「とんかつ」である。

下戸であるせいか、酒のツマミ系にはぶれていかなくて、とことん「ご飯のおかず」的な要素にこだわるのがこの筆者の作の良い所。なおかつ、食物の食べあるき、あるいは美食の記録ではなく、どことなくブログ的に筆者の「食」の様子を軽い調子で読めるのも、このシリーズのみ魅力でもある。
さて、本書の構成は
第1章 とんかつとサラリーマン
第2章 とんかつと学生
第3章 ありがたいチェーン系とんかつ
第4章 とんかつ発展史
第5章 とんかつのバリエーション
第6章 にほんとんかつ紀行
最終章 とんかつオブザワールド
となっていて、まずは都内のとんかつの店 銀座「梅林」カツライス の
カツとキャベツにだらりとソースをかけて、右端から食べていく。衣さくりとしている。肉は脂身がやや多いが、噛み締めるとおいしいタイプ。・・良いとんかつ屋って、間違いなくお米も味噌汁もおいしいんだよね。・・なお、とんかつの付け合せのケチャップスパも丁寧な味で美味しいし、ボリュームがある。伝統的にとんかつ屋には、このスパが付け合せになっていることが多いよね。
であったり、新宿「豚珍館」 紙かつ定食 の
薄いけれど柔らかくて箸で切れるほどだ。食べると衣はサクサクで肉は柔らかく、カツを食べている実感は強い。私は分厚いとんかつも好きだけど、こういう薄いのも大好きだなあ。さらにカツも好きだけど、カツとともに食べるご飯も大好きなんだよね。そう考えると、この紙かつは主張しすぎない分だけご飯をおいしく食べることができる良き伴走者であると言えるね。
 
といったところから始まる。
本書の「なぜか目黒にはとんかつの名店が多い。」(P47)で象徴するように定食屋、立ちそばの同じく、とんかつも、人の動きが多くて、特に原を減らす度合いの多い学生や勤め人が多く、しかも住宅地の近隣というところが、美味くて、量もたっぷりの店が多い気がしていて、やはり、都会に利がある。名前を失念していてもどかしいのだが、女性の漫画家のエッセイに原稿料が入ると、必ず妹とトンカツ屋でとんかつを食べるのが贅沢だったという一節を読んだことがあって、これは私の学生の頃の原体験に重なり、やはりビンボーな学生、若い労働者にとってトンカツはハレの日の食べ物であるという印象が強い。
ここらへんは、私より年齢の若いせいか筆者にとってトンカツの価値は、少し「軽い」もののようで

体調によってランチに食べたいものは変化するものだ。・・まずベストなときは天丼である。ご飯の上によく揚がったエビやらイカやらかぼちゃやらの各種の天ぷらがどーんと載り、辛めのタレがかかったいわゆる江戸風の天丼は、ご飯+揚げ物なんで食べがいはあるがかなりハードである。
 
一方、最も体調がすぐれないときは、野菜の煮物や煮魚の定食などを食べることができればいいけれど、そんな定食にはなかなか巡り合わないものだ。ゆえに代案としては、たとえば立ちそばできつねうどん(そば)とおにぎりの組み合わせだったりする
 
それでは、とんかつはどういう位置づけか。まあ天丼ほどハードじゃないけれど、少しは元気がないと食べられないですね。ただし、とんかつでも定食となった場合は、大体伴走者として大量の千切りキャベツやお新香もついてくるので、野菜摂取も実施されるため天丼よりは栄養的にも問題がなさそうだし、消化もキャベツが助けてくれそうなので、思いのほか体調には左右されない。(P18、P19)
というものらしい。
ただ、そうであっても「トンカツ」の値打ちを軽視しているものではなくて、浅草「リスボン」で並カツライスを食べるくだりの
とんかつソースのほうをカツとキャベツにかけ、辛子ももらって皿の横につける。ここはお箸だな。カツは切れているので、はしっこから食べる。サクリ。これはなんとも軽やかかつサクサクの揚げ具合。そしてとても香ばしい。並なので肉も薄いけれど、これはこれでとても「カツ」という感じがするよ(P156)
札幌「とんかつ井藤」かつ丼大盛り の
まずはカツをかじる。卵でとじているのに揚げたてのカリカリ感が残っている、肉も厚めでこれはまさにとんかつ屋のかつ丼。うまい。タレはあっさりめでタマネギはやや生っぽいのが特徴か。・・・また味に深みがあるなと思ってたら、なんとしいたけのみじん切りが入っていて、これが深みの理由だと納得。
納得後はもうバババと食べ進めたのであった。かつ丼はバババと食べ進めなくてはね!
といったところを読むと、筆者が深く「カツ」を愛しているのがわかるはずだ。
さて、都内のとんかつの名店やとんかつの歴史にふれた後、本書はとんかつから派生したカツ丼、カツサンド、メンチカツ、トルコライス、ミックスフライなどへと派生していき、最後の方は、「トンカツ」の範囲をはみ出していくのだが、
渋谷宮益坂「かつや」 エビフライ丼(514円)の
カリッと揚がって、よいエビフライ。エビの身が太くてプリプリというわけにはいかないが、値段から考えると充分です。それに五本もあるという豪華さがいい。一般的にエビフライ定食などを食べると、そもそもエビフライの本数が少なくて・・・綿密な運営計画が必要になるのだ。
ただ、このエブフライ丼はフライがインフレ状態で、ないかつご飯もそんなに多くはないので、無計画に食べ進められるシアワセがここにはありますね
などなど、「美味いものは美味い」とおもわずトンカツにかぎらずフライを箸で挟んで高らかに持ち上げたくく勢いがでてくるのが、今 柊二氏の食べ物本の良いところ。
全体にカラーページも多く、「カツ」の旨さが伝わってくる装丁になっているのも嬉しいところなのだが、この筆者、とんかつを食べるときは、かならずおかわりをするか、ご飯大盛りであって、やはりこうしたB級グルメの作者というものは大食漢でないと勤まらないのだろうな、あらためて思った次第である。

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