「PDCA」を回す秘訣は、地道にCとAをくりかえすことにあり — 松井忠三「無印良品のPDCA ー 一冊の手帳で常勝経営を仕組み化する」(毎日新聞出版)

著者は無印良品で有名な「良品計画」の元会長さんなのだが、業績がどん底の時に社長に就任し、大奮闘しながら「良品計画」を立て直した経営者。なので、本書で取り上げられるPDCAの技術も、妙に信頼感がある。

構成は

序章 アナログ手帳とPDCAの切れない関係
1章 手帳は経営のための「思考基地」
2章 変革のためのPDCA
3章 勝ち続ける仕組みはPDCAがつくる
4章 風土を変えるPDCA
5章 スパイラル型のPDCAで成長を促進する

となっていて、第1章は、手帳を使った自身のPDCAの回し方のノウハウのところで、PDCAや手帳術を求めている人には、この章以外はテクニック的なものが少なくなってしまうのは少々寂しいかもしれない。

ただ、本書の「ウリ」の一つは、業績が悪化した企業をPDCAの手法を使いながら、どう立て直していったか、という点でもある。

そしてそのあたりは

これは良品計画に限ったことではありませんが、一般的に、経営者がビジョンや経営方針といった計画を考えて、経営方針発表会などで話しても、 実行してくれるのはせいぜい半分。残り半分の人は実行してくれません。
計画は、日々の業務に落とし込まなくては実行されず、日々の業務に落とし込まないとPDCAは回り出しさえしないのです

といったところに現れていて、

PDCAだからといって、律義に「P」から始める必要はなく、危機的な状況のときは、まずやれることをやる、つまり「D」から始めて、D→C→A→P→D→C……と、PDCAを回せばいいというのが私の考えです。

というところは、ともすれば、机上の理論、あるいは「PDCA」という順番や型にはまりりがちな「PDCAの実践」についての大事な注意事項であろう。

さらに筆者の主張で特徴的なのは、しつこくPDCAを繰り返し回すというところで

経営で一番難しいのが、攻めるときです。 当時の良品計画のようにイケイケどんどんで攻めてしまうと痛い目を見ることが多いのです。
「膨張」ではない、質をともなった「成長」をするためには、巡航速度を超えるような急拡大は行ってはいけない。 これがこのときの教訓です

といったところには、経営がうまくいっているときほど、PDCAという手法で今の状態をきちんと把握し、行動をねる必要性を訴えているのであろうし、

人は、1回の失敗だけではなかなか素直に学べないものです。 たとえ自分の見通しが甘かったとしても、「ゴールデンウイークに雨が多かったからだ」とか、「梅雨が長かったからだ」などと、さもそれらしい原因を外に見つけ、うまい言い訳をします。たまたま運が悪かっただけだと考えてしまうのです。 そして、2回目の失敗を犯します。ですが、2回失敗すると、さすがに言い訳ができなくなります。ここでようやく失敗は自分のせいだと認め、何が悪かったのだろうかと原因を真剣に考えます。問題の本質に気づくためには、人は2回失敗する必要があるのかもしれません。
PDCAにおいても、1回目の「C」「A」には、問題の本質に向き合う真剣さに欠けるところがあり、2回、3回と「C」「A」を行うことで問題の本質に気づき、その改善ができることが多々あります。

といったところには、一度では学習しきれない「人間」の性向を冷静に把握した上でのアドバイスでもある。

そしてさらには、

決まったことを、決まった通りに、きちんと全員がやれるという社風をつくるために、あいさつやルールを徹底的に毎日、毎日やり続けるのです。 「子どもみたいだな」そう言われることもよくあります。しかし、 子どもみたいに、当たり前のことを当たり前にやり続ける組織が一番強い

と言った述懐は、基本に忠実なこと、地道にやりとげることが、大事であることをあらためて教えてくれるようである。

さて、ビジネスのマスターキーのように言われる「PDCA」であるが、実はそれを効果的に使いこなしている例はそんなに多くない。それどころか「PDCAを回そう」と組織をあげてやろうとして自壊してしまうことも多い。
本書を読むと「PDCAを回す」ということは、時機をみて、地道にやっていくことが大事なんだな、とあらためて認識してくれる。けして「近道」を教えてくれる本ではないが、「王道」のところをアドバイスしてくれる本でありますな。

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