道真の推理の冴えは、反・藤原への一本道 ー 灰原薬「応天の門 6」(バンチコミックス)

前巻までで、兄の死と藤原一族との関係を知ったり、プレーボーイで検非違使の取りまとめをしている在原業平、打倒・藤原北家の旗頭で粗雑ながらエネルギッシュな伴善雄などとの親交が深まっていって、反・藤原派のレッテルを貼られそうな道真であるのだが、当人としては、政争からは遠ざかっていたい気持ちなのだが、その知識と頭のキレの良さで世の中が放っておかない、いう気配が濃厚になってきている本シリーズ。

本巻では、京都市中で闇商売をしている「昭姫」の秘密や、道真の師匠で、許嫁の宣来子の父親・島田忠臣がなぜ菅原を離れ、藤原基経についたか、といった謎があかされていく。

【構成と注目ポイント】

構成は

第二十七話 長谷雄、唐美人に惑わされること 二
第二十八話 長谷雄、唐美人に惑わされること 三
第二十九話 島田忠臣、菅家廊下につとむる事 一
第三十話 島田忠臣、菅家廊下につとむる事 二
第三十一話 源融、庭に古桜を欲す事 一
第三十二話 源融、庭に古桜を欲す事 二
第三十三話 源融、庭に古桜を欲す事 三

となっていて、第二十七話・第二十八話は前巻の唐からの逃亡者に関わる話の解決編。唐から密航してきて、港で港役人を殺した犯人が、昭姫の知り合いということが判明するのだが、ここから昭姫が、中国の唐王朝の宮廷につかえていた前歴が明らかになる。
二人が宮廷時代の話をしている

といったシーンを見ると、「小太宗」と呼ばれた唐の十九代皇帝・宣宗の後宮に仕えていたのかな、と推測。唐は、この宣宗の次代・懿宗の死後・黄巣の乱が起きて国が傾いてますね。

話のほうは、この密航者の唐からの亡命者・寧を京から脱出させるのに、道真が知恵を絞るのだが、この人物が実は去勢して宮中につかえている「宦官」。

中国の王朝特有の宦官であることを利用するのだが、日本には「宦官」の制度がなかったことが、このトリックを成立させてますね。

第二十九話・第三十話の「島田忠臣、菅家廊下につとむる事」は、道真がまだ幼い頃の「島田忠臣」のエピソード。忠臣は、身分が低いながら学問に秀でているので、道真の父親・菅原是善に見込んで、忠臣の娘・宣来子を道真の許嫁にしたり、自分の学問所の跡を継がせようとするのだが、なぜ、そこまで見込まれながら菅原から離れて藤原についたのが明らかにされる。
道真の才能におそれをなしたということもあるのだが、大きな原因は、是善の忠臣を労った

というなにげない言葉にあったようですね。

第三十一話から第三十二話の「源融、庭に古桜を欲す事」は嵯峨天皇の子どもで、「源氏物語」の主人公である光源氏のモデルともいわれる「源融」の新しい別荘の庭造りに関する話。
この庭に地下近くの古桜を移植しようとしているのだが、その作業に携わる職人たちの手斧が折れたり、皮膚がただれたりといった怪異が起きて、職人たちは仕事を嫌がって逃げ出す状態に。

噂によるとこの木のちかくで昔多くの人が死に、そのうちのここで首を吊った女の呪いで男が近寄ると悪いことがおきる、ということであるらしい。
「怪異」を信じない道真は、その謎を解くが、謎の陰に防人となって陸奥へ派遣されている男の帰りを待つ女性がいることをしり、彼女のために一肌脱ぎ、という二段構えの展開である。
注目すべきは、古桜の怪異の真相とともに、道真の策にまんまとはめられた「風流バカ」のようでありながら、

としっかりと裏筋まで読んでいる「源融」の姿に、当時の貴族の凄みを感じますね。

【レビュアーから一言】

藤原一族っていうのは、他氏族の勢力を削ぐために、一族が手を結びながら行動しつつも、同族の間でも争いをする、っていう権力亡者のようなところのある一族で、この巻の最後の方の同じ藤原北家のなかの藤原良房と藤原良相の娘の入内争いが、それを象徴してますね。こんなあたりをみると藤原一族の人ってのは、「息をするように」陰謀を企んでるとしか思えなくなりますね。

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