道真と業平。平安の反「藤原氏」の旗手の推理の冴えをみよ ー 灰原薬「応天の門 1」

平安時代、それも藤原氏が宮中を支配する最初の頃の時代というのは、時代小説でも描かれることが少ないせいか、かなり縁遠い時代であろう。

それに加えて、菅原道真とくると、受験の時には「お世話」になるもとも多いのだが、受験が終わって喉元過ぎると、ちょっとこういう「学問の神様」と親しくお付き合いするのはどうかねー、というのが正直なところ。

本巻から始まる「応天の門」シリーズは、そんな菅原道真が若い頃の、成長してからの「学問の神様」から想像される生真面目なイメージとは全く違った、頭はキレるがちょっと乱暴な、道真の活躍を描いた平安時代ミステリーである。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 在原業平少将、門上に小鬼を見る事 一
第二話 在原業平少将、門上に小鬼を見る事 二
第三話 在原業平少将、門上に小鬼を見る事 三
第四話 都を賑わす玉虫の姫の事 一
第五話 都を賑わす玉虫の姫の事 二

となっていて、最初の三話は、このシリーズのキャストの紹介も兼ねたオープニング・ストーリー。

まずは、屋根の上で「書」を読んでいると主張する道真と、女性のところから帰宅する途中の在原業平が出会うところからスタートする。この様子を「子鬼」と表現しているのだが、道真のイメージに反する身軽さと、イメージどおりの愛想の悪さが共存していますね。

昼間のちゃんとした時の様子はこんな感じなのだが、ここは「愛想の悪さ」がかなり強調されてます。

話のほうは、貴族の屋敷から下女が消えるという謎をとく筋立てで、この時代らしく、「鬼の仕業」という評判になるのだが、この「シリーズはそういう怪奇譚の方向ではなく、ちゃんとしたミステリー仕立てで、消えた女の謎をとく鍵は、SM趣味の藤原氏の一族といったあたり。
さらに、この事件の犯人として、もうひとりのメインキャスト・紀長谷雄が登場するのだが、この人物がどういう人かはネットで調べてください。

もうひとり注目しておくべきは、藤原氏の専横の基礎をつくった藤原良房で、検非違使や業平に追い詰められる藤原一族の貴族に対し、

と冷たく扱うあたりは、ラスボスの風格十分でありますね。

後半の話は、都で評判となっている絶世の美女・玉虫の姫の話。このお姫様はとんでもなく美しい上に、碁、双六、琴、漢詩、和歌もな堪能な女性という噂なのだが、誰にも会おうとしないという姫君。そして彼女の屋敷の近くで、貴族の男が変死するという事件が起き、業平、道真が謎解きに乗り出す、という展開。
この謎解きと並行して、美女の噂は帝のもとまで届き、藤原氏が後宮を独占することを阻むため、伴善男が姫を帝の后にしようとするのだが、実はこの姫君には侍女たちが隠している大きな秘密があって、という展開なのだが、これから先の詳細は原書でご確認を。

ちなみ、この姫君の次女の一人の白梅という娘が「書物」の知識を買われて、道真のところの下女として仕えることになりますね。

【レビュアーから一言】

平安ものというのは、登場人物が宮中の皇族や貴族が中心となるので、戦国ものや幕末もののようなアクションシーンは少ないのだが、闇の深さは変わらないようで、陰謀の風味満載の謎解きが楽しめる仕上がりとなっている。
登場人物がちょっと聞いたことのない人も出てくるのは事実なのだが、そこはググりながら、道真のクールな活躍と推理を楽しんでくださいな。

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