兄の死の原因が、藤原北家の一族の無茶な仕打ちであることが明らかになってきたり、在原業平をはじめとした反・藤原北家のメンバーに取り込まれそうになっていたり、とこれからの官僚生活の方向性を決めてしまうようなシチュエーションに陥りそうな菅原道真。
ただ、今巻はそんな大きな流れに巻き込まれる前の、ちょっとした「淀み」といった風情の第10巻である。
【構成と注目ポイント】
構成は
第五十二話 藤原基経、道真と会遇する事
第五十三話 都に馬頭鬼のあらわるる事 一
第五十四話 都に馬頭鬼のあらわるる事 二
第五十五話 都に馬頭鬼のあらわるる事 三
第五十六話 道真、米算用をする事
番外編
となっていて、まずは前巻に続いて、仇敵となりそうな藤原基経に、源融の主催する宴会の席で出会うところからスタート。基経が道真のことを「吉祥丸(道真の急死したお兄さんですね)の弟か」と呟くので、基経が兄の死に関係しているのでは、と思い込みそうになるのだが、
といった場面に象徴されるように、むしろ兄たちが道真の兄を嘲弄するのを止めようとしていたのが真相で、ここは不幸な勘違いという方向に次巻以降進みそうな感じがしますね。
第五十三話から第五十五話の「都に馬頭鬼のあらわるる事」は、前巻まで京の夜を騒がしていた百鬼夜行に関する話。
検非違使を中心に剣を狙って、馬の頭をした真っ黒で大きな物の怪が出没を始める。どうやら、多美子入内の騒動の際に、道真が拾った湾曲刀が関係しているようなのだが、その湾曲刀はどうみても日本のものではなく、唐の先の西域のものであるらしい。
この「馬頭鬼」と「湾曲刀」の謎を解くため、道真は「馬頭鬼」をおびき出し、捕らえることに成功する。そして、その「鬼」を捕獲後、道真は彼となんとか意思を疎通しようと試み・・・、といった展開。
この「馬頭鬼」といわれる異人の出身地に、この時代の日本が意外に国際化されていたのでは、といった思いがしてきますね。
この話の最後のほう、この異人が残す言葉にどういう意味が隠されているかは、皆さん考えてくださいね。
最終話の第五十六話「道真、米算用をする事」は闇商人・昭姫のところの在庫と帳簿の整理に道真が駆り出される話。こういった事務仕事に。文章生の道真を使わなくても、もっと計数に優れた配下はいるんでしょうに、と思うのだが、ちびちびとした不正を発見してしまうのが、道真らしいところですね。もちろん、
といった昭姫からの謎掛けっぽい忠告もあって、これまた道真のこれからに影響を及ぼしそうですね。
【レビュアーから一言】
最後の「番外編」では、道真の許嫁・島田宣来子が、年頃の女の子らしいところが披瀝されてますね。しかも、彼女のお化粧に使われる小道具とか、ファッションを見ると、この時代の日本が、リスクロードの最終点らしく、民族の文化の混じり合うところであった感じが漂ってます。
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