脳は何度でもやり直しがきく ー 茂木健一郎「脳を活かす仕事術」(PHP)

脳を活かす仕事術

情報のインプット、アウトプットや新しいアイデアの創出といったことは、どうしても「精神的」「感覚的」にとらえてしまう傾向があるのだが、実はそうした「精神論」だけではうまくいかないことは、多くの人がうすうす感づいていることであろう。

そんなあたりの不安を受けて、脳科学の先駆的な学者である筆者が、「脳」というものの生物学的・生理学的な機能であるとか特徴を踏まえた、より良いアウトプットや創造的な仕事の方法を提案してくれるのが、本書『茂木健一郎「脳を活かす仕事術」(PHP)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに 卒業前に就職先が決まっていなかった大学時代
第1章 脳の入力と出力のサイクルを回す
第2章 茂木式「脳の情報整理術」
第3章 身体を使って、脳を動かす
第4章 創造性は「経験×意欲+準備」で生まれる
第5章 出会いが、アイデアを具現化する
第6章 脳は「楽観主義」でちょうどいい
第7章 ダイナミックレンジが人生の幅を広げる
第8章 道なき場所に道を創るのが仕事である
おわりに 脳は何度でもやり直しがきく

となっていて、脳科学の側面から、我々の「思い込み」をあれこれ訂正がされている。

それは、例えば

人間は、自分の脳の中にある情報を出力(アウトプット)するには、必ず手や足、口などを使って「運動」をしなければなりません。「何がいいものか」がわかるのは、感覚系が発達している証拠です。しかし「実現できない」のは、感覚系に対して運動系の発達が遅れているからなのです。

であったり、

脳とは常にインプットを求める存在です。テレビやネットを漠然と見ている最中でさえも、無意識のうちに様々な情報を入力してしまいます。ですから、日常的にそれに見合ったアウトプットを意識的に行わないと、どうしても入力過多に陥ってしまいがちなのです。

といったあたりは、こうした「創造」の議論になると、とたんに精神面に偏って考えてしまう我々に対して、フィジカルな部分が重要なことを教えてくれていて、このあたりは、「文系」と言われる方々も、脳科学的な知識をもっておかないといけないということですね。

こうした脳の生物学的なもの根底においておくということは、情報管理、情報整理や、アイデアだしをする際の考え方も変化することを強いていて

脳のポテンシャル(潜在能力)を最大限に発揮するには、「情報の整理や暗記に頭を使わないこと」を重視し
(略)
細かい情報は破棄したほうが、脳の活動のほとんどを ”思考” や“創造” にあてられる。小さな情報を毎日整理し続けるよりは、脳の力を知的な創造に注力したほうがはるかに効率的

であったり、

実は、記憶の整理による情報の連結は、脳の中でしょっちゅう起こっている現象なのです。ただ、それに自分で気づかなかったり、関心をもとうとしなかったりするだけのことなのです。  しかしこうした「ひらめき現象」を放っておくと、アンテナ回路は「なんだ、興味がないんだな」と、どんどん弱体化してしまいます。では、せっかく生まれた「ひらめき」を逃さないようにするには、どうすればいいのでしょうか。それは、「釣りをする漁師の心境」でいること
(略)
心身ともに、いつ魚のあたりが来ても大丈夫な状態にしておいて、面白いことが起きたら、「これ、いただき」というようにパッと捕まえる。たとえ、いまやっている目の前の仕事とは関係がなくても、いち早く反応する。アンテナ回路を鍛えるためには、これが重要

といったところでは、今までの定型的な考えを結構改めないといけないようですね。そして、こうした思考方式のへ変革となると、途端に、中高年の方はしり込みを始めるのだが、

「創造性」は、すべての人の脳に宿っている力です。別に特別な力でも、神秘的な力でもありません。また、 よくいわれる「お年寄りよりも、若い人のほうが頭が柔軟だし、創造力がある」という言説も間違いです。創造性は年齢・性別・境遇にかかわらず、誰でも発揮しうるもの

であるそうなので、そこは年齢を重ねいる方々もひるまずチャレンジすれば、何らかの効果や結果はでそうなので、ご安心を。
さらには

社会の中で革新的なことをかたちにし、新たな需要を生み出そうとしている人のことを「イノベーター」といいます。こうした人の多くは、常に忙しく、行動をしています。それはいってみれば当然なことで、「これ!」という決め打ちでイノベーションが起こるはずもなく、いろいろトライする中からしか「革新」は起こらないのです。

ということであるので、一回や二回の失敗にめげることなく、何度もチャレンジが必要なこと、いいかえれば、イノベーションを起こすには数度の失敗は当たり前に「想定内」ということであるらしい。。

今まで挙げたもの以外にも、「思考のリフティング」や「タイムプレッシャー」や「ロマンティック・アイロニー」など興味深いサジェッションは数々あるのだが、肝心なのは

かつて、脳科学の分野では「一度成長すると脳細胞の配列は変化しない」と考えられてきました。しかしいま、この考え方は否定されつつあります。現在は、「人間の脳は常に変わりうる存在だ」と考えられているのです。 この「可塑性」は、誰しもがもっている能力です。それまで何の仕事をしてきたか。どんな行動をとってきたか。どれに成功して、何に失敗したかは関係ないのです。

ということであろう。「脳は何度でもやり直しがきくのです。そして変わり続けることができるのです」という言葉をバネにチャレンジしていくことが一番大事なようであります。

【レビュアーからひと言】

終盤あたりで筆者は、才能こそが大事だと思われている分野でも、総合的な人間力が必要だとし、

では、総合力はどのように強化すればいいのでしょうか。  まずは「雑種性」「雑菌性」を身につけるということ。
これは、様々な文化や未知の世界に触れて経験することで、身についていきます。 一つのカルチャーしか知らない人は弱いです。
(略)
新しい経験をすることで、いままで未知だった場所が、自分のホームグラウンドになっていきます。さらに新しい経験を積み重ねていけば、自分のホームグラウンドはどんどん広がっていくでしょう。
それは結果的に、自分の総合的な人間力を高めることにつながっていきます

としている。どうやら、「可愛い子には旅をさせよ」や「書を捨て、街に出よ」といった諺や格言は、脳科学的にも正しいようですね。

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