人出不足の解消のコツは若者への「攻めの人事」への転換にある ー 原田曜平「若者わからん! 「ミレニアル世代」はこう動かせ」(ワニブックスPLUS新書)

「若者論」というと、彼らの消費行動であるとか、生活様式などについての論述が多くて、一緒に働いていく、部下ないし同僚としてビジネスをする、という視点で書かれたものは、おどろくほど少ない。
さらに、最近の人出不足の状況の解消の場面でも、外国人労働者の議論は多くなってい入るが、最近の「若者」の行動特性を踏まえながら、働きやすい仕事環境について正面から論じているのは、

本書で取り上げるのはこの「消費者」としての若者ではなく、前述したうちの二、「採用対象者」としての若者と三、「育成・管理対象者」としての若者である。

としている本書ぐらいではなかろうか。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
第1章 若者に目を向けない企業は消えていく
第2章 こんな社員に困っている!ーミレニアル世代の特徴ー
第3章 好かれる上司、嫌われる上司
第4章 企業が取るべき若者対策
おわりに

となっていて、本書の対象とするのは、いわゆる「ミレニアム世代」「スーパーゆとり世代」で、本書によれば「極端に上昇志向が減退」し、「極端な個人主義」が進んでいて

表面の柔らかで調和的な態度と、内面の頑固さと個人主義のギャップが、ミレニアル世代の特徴なのだ

という世代的特徴を有していて

表面上は大変素直で穏やかに見えるが、彼らの「本質」とそれとのギャップは大きく、上の世代の彼らへの理解をいっそう難しくさせている。

ということから、昨今の世代間ギャップの拡大を生み出しているようなのだ。
 

ただ、では本書の論述の対象とする「働き手」と考えた場合、本書のいうように

やる気はあるものの言語も文化も違う外国の若者たちをずっと採用し、育成し続けることと、ハングリー精神の少ない日本の若者を採用し、育てるのと、どちらが難しいかと言えば、一長一短であることがわかっていただけたと思う。
このように、長期的・多角的な視点で考えると、数の少なくなっている日本の若者を簡単に見限るのはまだ早計で、日本の若者という限られたパイの争奪戦でどう勝っていくかに注力することもまだかなり有効な手段だと私は考えている

という主張に当方も賛成で、特に現在、障がい者や老人施設を経営する社会福祉法人に勤めているせいか、こうしたサービスの主たる担い手として、外国人労働者のみに頼って「日本の若者」を簡単に見捨ててしまうことは、利用者の不安をかきたてる一因にもなるよね、と思う次第なんである。

もっとも、では、日本のミレニアル世代を採用対象者としてターゲットにするとはいっても

彼らは、ベースとして既に豊かな生活を送ってきたので、不必要なまでに頑張るという感覚や給料が多ければ何でもするという感覚もない。
それよりも居心地やワークライフバランスをかなり重視する傾向が強くなってきている。

であったり、

ミレニアル世代は個人主義化しているものの、昔の日本人以上に集団の中で意見を主張したり、強引に押し通したりするのは苦手になってきている傾向がある。

ということがある上に

ミレニアル世代はリスクを嫌い、安定を好む傾向が強くなってきている。

ということであるようなので、雇用者、上司の立場になる、「ビフォー・ミレニアム世代」も今までとは、行動原理を変えて対応する必要があるようだ。それは、部下の動かし方ということにも顕著で

彼らの話を引き出すためには、若手であっても一人の大人としてしっかり認めてあげて、仮に未熟と感じても彼らの話に耳を傾け、若手からも積極的に学ぼうとする姿勢を見せることが大事になっている。
そして意見をまとめる場面では、昭和型リーダーの強引さを思い出して、半ば強引に意見をまとめるのも大切だ。
このような柔と剛を併せ持つハイブリッド型になることが、今の上司や先輩たちには求められているのだ

具体的なメリットを若者に提示し、頑張らせる指導法を「プツシュ型指導」、彼らが自発的に頑張りたいと思うように誘導する指導法を「プル型指導」と言うなら、ミレニアル世代には、「プル型指導(自発性に基づく指導)」しか効かない

ということで、「オレについてこい」的なカリスマ的なリーダーから、フォロアー的なリーダーへ、求められる「リーダー像」が変わっていっているのも、こうしたことを反映してのことであるのだろう。どうやら、昭和・平成のはじめ的な「人事管理」や「組織管理」は大きな変革を覚悟しないといけない時代になっているのは間違いないようです。

そして、筆者が何度も本書の中で主張しているように

どのシナリオを描くにせよ、やはリベースとして最も重要になってくるのは、言わずもがな「ミレニアル世代を付加価値の高い人材に育てていく」ことだ。この前提があった上での移民の増加であり、働く女性や高齢者の増加である。

と、これからの企業経営は、人出不足、労働力不足という状況の中で、「ミレニアル世代」をどうビジネス社会の中で受け止め、どう育成モデルを描いていくか、それぞれの企業が考えないといけない時代に突入しているのは間違いない。「最近の若い者は使えない」的な安易な切り捨て論に走ることなく、本書のあれこれのTipsを参考にしながら、考えてみようではありませんか。

【レビュアーから一言】

本書の本題とはちょっとはずれるのだが、「ミレニアル世代」の若者を取り巻く環境で気になったのが、

格差の時代なので、かつて以上に経済的に苦しい若者が増えていることも事実だ。
(略)
様々なメディアで「日本の大学生はもっと海外に行くべきだ」という指摘がされているが、実際には海外留学どころか、大学の授業料を確保することすら難しい家庭が増えたのである

といったところで、どうやら当方を含めたバブル世代が、効率主義の名のもとに、社会を安定化させる基礎となる「中間層」を衰弱させてしまったことで、今の日本の様々な問題を生み出しているような気がしてくる。このあたりは、現在、企業で主導的地位にある世代が

今までずっと軽視してきた、労働者である若者に対する研究を政府も企業も自治体も積極的に行うべきだ。
彼らをきちんと理解した上で、自社にとって良い施策と若者にとって良い施策のベン図の重なりを見つけ出し、その面積を最大化し、制度やシステムに落としていく。
そして、若者がイキイキとそのシステムに溶け込んで成長していけるよう、研修やOJTなど、積極的に人材投資をしていく

ということで、次の世代を後押ししていくことが、切に求められているのでありましょう。

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