柴田勢と上杉軍の激突の寸前、藤吉郎は逃亡。センゴクどうする ー 宮下英樹「センゴク天正記 8」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason2「センゴク天正記」の第8巻。

越前・七尾城の籠城戦をめぐって、織田と上杉との大激突する「手取川の戦」が描かれるのが本巻。もちろん、「戦の名手」として知られる上杉謙信のことですから、単純な城攻めではなく、あちらこちらに目を配りながら、周到な戦準備と謀略、そして時機をとらえることの巧みさがよくわかる展開です。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.70 織田か上杉か
VOL.71 北進
VOL.72 秀吉の策
VOL.73 織田軍の選択
VOL.74 背水の陣
VOL.75 織田軍撤退
VOL.76 総大将 柴田勝家
VOL.77 生存の道
VOL.78 堀之介
VOL.79 電戟と軍神

となっていて、織田に敵対することを決めた上杉謙信の軍が、越前・七尾城を包囲しているところからスタート。城方で城主畠山春王丸を要する遊佐続光は上杉に降伏して、自らがこの越前を支配する気満々なのですが、越前畠山の重臣・長一族は信長に救援を求めることになります。幼君を利用する悪臣に、主家を守ろうとする忠義の旧臣といった構図ですが、遊佐一族は、後に長一族に滅ぼされているので、本当のところはどうでしょうか・・。このあと、城兵や領民のことを思った春王丸の行動が彼に悲劇を招き寄せるので、なおさら真相をわからなくしているような気がします。

対する、織田勢のほうは見た目は、柴田勝家を中心に軍をまとめているようですが、

という援軍を受け入れた時の信長の発言がある上に、実は織田軍の宿命の「功名争い」が蠢いています。もちろん、その主役は「羽柴藤吉郎」で、柴田、明智を飛び越して筆頭家老狙いの、七尾城調略を企画し、その役目につくのが、「センゴク」です。彼は、能美の地侍の堀才助という人物に接触するのですが、その成果は・・・???ということになりますね。
そして、羽柴と柴田の対立はとことん最悪になります。陣幕の中で、この戦が謙信の謀略ではないかと語っているのを、柴田勝家が聞きつけ、臆病者の戯言と激怒します。

これが原因で藤吉郎は帰陣するのですが、これが藤吉郎の「改易」の危機を迎える原因となる事件です。

で、戦のほうは七尾城で幼君を助け、信長に救援を求めてきていた長続連一族が殺されていたことが判明し、援軍する理由を失った柴田勝家は、撤退を決意します。ところが織田軍の前に立ちはだかるのは雨で雑炊した手取川(湊川)で、立ちすくむ柴田勝家に率いられる織田勢に謙信軍が総攻撃をしかけます。


ここにおびき寄せた謙信の計略は見事なものですね。
ただ、敗色濃厚な場面で、一番さまになるのは

と号令する柴田勝家で、勝敗は別として、こういった剛将は、なかなか得難い人材ですね。そして、ここでセンゴクはどんな働きをするかは、原書のほうで。

【レビュアーから一言】

今回、柴田勝家を主軸にして、丹羽、滝川、前田、佐々といった武将たちが寄騎としてついて、信長本軍とは遠く離れて、上杉謙信に対峙した体制が、織田軍を特徴づける「方面軍」のもとになったとの話があるのですが、緒戦は苦いものになってます。

ただ、このアイデアのおかげで、主君の信長がいちいち先頭に立たずとも、多方面にわたって軍を展開できるわけで、楽市楽座などによって経済力はあるが、四方八方を取り囲まれている織田軍にとっては起死回生の戦術であったと推察いたします。

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