秀吉は政権奪取。しかし戦乱の兆しはすでに ー 宮下英樹「センゴク一統記 13」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第13巻。

前巻では、柴田勝家との「賤ヶ岳の合戦」で秀吉が勝利を収め、織田家の継承者であることを明白にしたのだが、今巻では、その戦後処理と、波が鎮まったかに思えていた政情が、織田信雄、徳川家康の思惑によってふたたび戦乱へ向かっていくところが描かれます。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.108 天下人の業
VOL.109 栄達と誇りと
VOL.110 知行宛行
VOL.111 現世と幽玄
VOL.112 幽玄の智
VOL.113 織田信雄の決断
VOL.114 雌伏の刻
VOL.115 笠寺談義
VOL.116 調略の要

となっていて、まずは、勝家の北ノ庄城の炎上を前に、織田信長から天下を受け継ぎ「天下人」になったことをかみしめるシーンからスタート。ただ、天下人になった感慨以上に秀吉は

と「決して奢(おご)っちゃあならねえ」と自分を戒めていて、内部の敵や外部の敵がまだまだいることを認識しているようです。織田信長の跡目を引き継ぐことしか考えていなかった柴田勝家や織田信雄、神戸信孝とはちょっと違って政治家の風格が出てきていますね。
もっとも、神戸信孝を攻める陣中での

といったような様子をみると、厳しめに律していないと、自分を見失ってしまって、天下統一の前に自滅してしまうこととなったかもしれません。そのあたり、秀吉は権力の魅力だけでなく、魔力にも気づいていたのでしょう。

この後、神戸信孝は降伏の上切腹、佐久間玄番は捕獲の上斬首、さらに滝川一益も降伏し、秀吉は織田政権を完全に引継ぎます。
センゴクの方は、石田三成も彼のことは気にかけていたようで、正式に淡路を治める大名に昇格することとなります。ただ、様子を見るに政権中枢内での地位は確実に三成のほうが上でになってますね。

岐阜の稲葉山城の落城のころを思うと、センゴクも「大きく」なったものと感慨無量のところがあります。

さて、信長から秀吉へと政権が移り、これで「天下も安泰」とならないのが、世の常で、毛利、北条、長曾我部といった外敵だけでなく、友軍内にも火種が燻っています。織田信雄が自分のこれから生まれる子供が男子であれば「三法師」という、織田政権の名目上の当主である信忠の子供と同じ名前をつけると言い出しますし、家康のほうへは天台宗の僧侶・隋風が訪ねてきて、彼の心中に隠れている

といった野心を表に引っ張り出してきます。この隋風というお坊さんは、明智光秀が本能寺の変後、山崎の合戦で敗れて敗走するところなど、天下の政に変化の兆しがあるときに現れてますね。実は、この「隋風」というお坊さんは、のちの天海僧正。徳川幕府の成立後、家康・秀忠・家光の三代に亘って幕府の政策に大きな影響を及ぼす人物ですね。

ここでは、家康の息子で秀吉の養子に出され名門・結城家を継いだ結城秀康も登場します。彼は、兄・信康が信長の命令で殺された後、跡目を継いでもよかったのですが、能を見ているうちに幽玄界へ彷徨い込み、信康の母親・築山殿の恨みを感じとることとなります。そのせいでしょうか、天下を狙うことを決意した家康に呼び出された時に

といった言葉をもらすのですが、このあたりの「鬱屈」が、家康が彼を嫌った原因でもあるのかもしれません。

そして、秀吉に安土城を明け渡すよう命令された信雄が腹に据えかねて、反逆を決意するところから再び戦乱の気配が濃厚となります。信雄は、徳川家康に手を結ぶことをもちかけ、家康のほうも、和睦していた北条に秀吉を討つことを通知、さらには長曾我部にも援軍を要請し

ということで、小牧長久手の合戦がいよいよ始まります。ここで流石なのは秀吉で、信雄・家康の反逆の報を受けるや、腑抜けている近臣たちをあてにせず、自ら現状と打開策を考え始めます。

このあたりは、裸一貫から、知略で戦国時代をのし上がってきた男の実力を改めて感じますね。

【レビュアーからひと言】

北ノ庄の戦で敗れた佐久間玄番は捕縛されてから、降伏して秀吉政権に仕えるよう勧められるのですが、これを断っての斬首です。彼の姿には、ある種の潔さを感じますね。

彼は、三方ヶ原の合戦以来、センゴクを「センゴク兄」と尊敬していて、北ノ庄の合戦の時も、秀吉につくか勝頼に降伏するか、心中でセンゴクに相談していたようですが、どうやら、「戦国の世」に殉じることを決断したのだと思います。

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