小牧・長久手の戦、終結。天下は誰の手に落ちるのか? ー 宮下英樹「センゴク一統記 15」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第15巻。

前巻で、秀吉軍と家康軍が激突した小牧・長久手の戦が決着しるのですが、戦の勝敗は「武力」での対決だけではなく、「経済戦争」「政略」を含めた総合戦によって、天下の帰趨が決まっていくこととなります。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.126 景色
VOL.127 御首級
VOL.128 新しき世
VOL.129 惣無事
VOL.130 取次
VOL.131 和睦
VOL.132 統治者
VOL.133 天下人
VOL.134 戦国大名

となっていて、池田恒興に対峙していた井伊直正の軍が後退し始めるのを見て、森長可の軍が前進しこれを叩こうとするるのだが、これは徳川方の想定内。徳川方は足軽たちで迎え撃ち、旗本たちは待機して、森長可隊を引き付ける作戦に出ます。
というのも、森長可や池田恒興を待ち受けているのは、信長・秀吉に敗れ廃家となった「武田宗家」に仕えていた甲斐侍たちで、敗戦後彼らが身に付けた鉄砲術が今までの無念さとともに、敵兵の秀吉勢へ向けてさく裂します。

ここで、秀吉軍きっての猛将・森長可は眉間に銃撃を受けて討死。

本隊である三好長吉は、徳川方の榊原康政によって敗走させられているうえに、中陣の堀秀政は、家康の陣の威容をみて攻めるのを中断しているので、秀吉の徳川包囲網のうちの大事なところが総崩れになっている状態になってしまいます。

さらに、徳川方の猛攻は池田恒興を襲い、恒興は次男・照政を世継ぎに定めた上で落ちのびさせ、長男元助とともに華々しい戦死を遂げます。

ちなみに、ここで落ちのびた照政(輝政)がのちに播州姫路を治めて、姫路城を完成させた大名となります、子どもたちは姫路のほか、岡山、鳥取、赤穂などいろんなところの大名となってますね。

さて、小牧・長久手の戦で勝利した徳川方ですが、いまだに秀吉方は十万の兵を抱えていて、双方はにらみ合ったまま膠着状態に陥ります。この状況で秀吉の「スゴイ」ところは、武力によって徳川家康・織田信雄勢を倒しての天下一統が無理とみるや、それを「からり」と捨てて、「経済」によって天下を支配する「天下惣無事」の構想へと大転換を図るところでしょう。これは「銭」に代えて「米」を経済の基礎にすえる「米本位制」を採用するもの。

本能寺の変が起こらなけれなば、中国攻めにやってきた信長に、秀吉・官兵衛が進言しようとしていた策が根底にあるように思えるのと、「天下惣無事」は竹中半兵衛は死去する少し前、秀吉に彼の理想とする政治として打ち明けたものであるようです。まさにこの段階の秀吉の「政」(まつりごと)の集大成というものですね。

この構想によって、家康への敗戦で揺らいでいた堺の商人たちの信頼を一挙に取り戻すことに成功し、形勢を一挙に逆転します。商人たちには、日本各地のコメの豊作・不作の状況によって、利ザヤを稼ぐことも併せて提案しているので、ここは商人が「利」で動くことをしっかり把握している秀吉が、いまだ「武」に傾斜している家康を一歩リードした、ということでもあるのでしょう。

さらに、徳川方の中で、外交を扱っている石川数政と本多正信との功名争いを利用したり、家康の声望ばかりがあがって面白くない織田信雄に手を伸ばして和睦を成立させるなど、調略の限りを尽くしていくところが、さすが「人」の性質を知り尽くした「秀吉」ならではですね。

もっとも、徳川を出し抜いて、秀吉との単独講和をする信雄側も、このままでは家康側に組み入れられて「お終い」といったことになりかねないところをきっちり認識して、できるだけ自らを高く売ろうとしていて、よく言われるような「腑抜け」ではないような気がします。

自らの「武」が秀吉や家康に敵わないという、自分の限界をきちんと把握しながら、秀吉、家康といったこの当時の日本を二分する勢力を手玉にとるなど、食えないところがしっかり出ています。

ここらは、人情の機微を察するに得意な家康にしては、ちょっと奢りがでたのでしょうか。このせいで、しばらくの隠忍自重が強いられることになりますね。

この講和によって、信長が本能寺で倒れた後、大混乱に陥っていた情勢も、秀吉を中心に動いていくこととなります。それに従って、徳川の次男の身のふり方も変わったり、茶々の初恋も大きな影響を受けたり、といろんな人の人生も影響を受けるのですが、ほとまずは「センゴク一統記」も完了。最後のセンゴクと秀吉との湯治場での会話が、戦国時代の終焉の様子をよく表現しているのですが、詳細は原書で。

【レビュアーからひと言】

秀吉との講和によって家康を裏切ることなった、織田信雄は、とかく弱腰の世間知らずで、秀吉にいいように扱われているイメージで描かれることが多いのですが、本書では、秀吉に対し

とした上でしっかりと自分なりの「地歩」を確保している様子が描かれています。

ここらに、秀吉亡き後、茶々をはじめとする「大坂方」と「江戸方」との間に立って外交官の「萌芽」を感じるともに、戦おうとして果たせず秀吉によって切腹させられた織田(神戸)信孝と違って、「織田」宗家の血統を廃藩置県まで存続させた「意地」みたいなものを感じます。

センゴク一統記(15) (ヤングマガジンコミックス)
羽柴(はしば)×織田(おだ)×徳川(とくがわ)――長き合戦の結末は!? 日ノ本

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