「小牧長久手の戦」開戦。天下の帰趨は・・ ー 宮下英樹「センゴク一統記 14」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第14巻。

前巻で、秀吉に反旗を翻し、天下を狙う意志を固めた徳川家康と、秀吉が織田政権の継承者の地位を固めていることに我慢がならない織田信雄の連合軍と秀吉軍ががっぷり四つで戦う「小牧長久手の戦」が本格的に開始するのが今巻ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.117 忍耐
VOL.118 鬼武蔵
VOL.119 酔覚め
VOL.120 温情
VOL.121 三方ヶ原
VOL.122 中入り
VOL.123 奇襲
VOL.124 馬標(うまじるし)
VOL.125 つかめり

となっていて、信長亡き後の織田政権の行く末を最終的に決めることとなった「小牧長久手の合戦」が始まるのですが、信雄・家康の反乱の報を聞いて、秀吉は「本能寺の変」で見せた「大返し」を今回も見せて、家康・信雄を大慌てさせます。この「虚」のつき方が、さすが百戦錬磨の武将のなせる技ですね。

そして、こういう時の乱世の習いで、秀吉の実力に恐れをなし最初から味方について、犬山城を落とした池田恒興に続いて、織田信包、森長可といった武将たちが秀吉軍に参陣してきます。この結果、家康・信雄軍3万にたいし、秀吉軍10万とかなりの兵力差がつくことになります。

特に森長可は、歴戦の勇将であるばかりでなく、一族もすべて討死しているので、「死兵」といっていいような捨て身の覚悟です。

しかし、小牧の戦では、これが裏目に出ます。戦場に泥酔状態で出陣し、酒井忠次ら徳川方の武将に攻撃され、敗走させられます。

ここで、森と同行していた尾藤も退却するのですが、これが後々、彼の運命を狂わすことになりますね。
もっとも、小牧の戦のすぐ後は、犬山城で、池田、森、尾藤を赦し、配下に抱え込みます。ここらの差配は、「転んでもタダでは起きない」というところですね。

そして、いよいよ戦は本番の「長久手の合戦」へと移っていくのですが、ここで秀吉は三好長吉(後の「豊臣秀次」ですね)を総大将に据え、池田恒興、森長可、堀久秀で組織する大軍に「三河の中入り」を命じます。小牧野城をスルーして三河に入ることによって、家康の本拠をたたきつぶそうという戦略で、徳川方は「三方ヶ原の再来」とおそれをなします。もっとも、筆者は、三河侵入はフェイクで、実は家康軍の包囲網をつくることが狙いだったと推理しているのですが、真相のところはどうでしょうか。

大慌てとなる徳川勢の中で、家康は自ら行軍してくる秀吉軍を観察し、一番、戦歴が浅い三好勝吉をターゲットに定めます。三好長吉を総大将にしたのはその武勇からではなく、これからの政権構想を考えて手柄をたてさせようというつもりであることと、この4人の武将では、統制のとれた行動ができないことを見抜いてのことですね。

戦のほうは、池田恒興が小牧山城の東にある岩崎城を攻めて足が止まった時を見計らって、三好長吉の軍へ、徳川きっての猛将・榊原康政を筆頭に奇襲をしかけます。長吉隊のほうは何が起きたかわからないうちに総崩れとなり敗走を始めます。ここで長吉が討たれでもしていたら、その後の歴史は徳川方のリードで進んだのでしょうが、中ほどに位置していた「孤高の名将」堀秀政がこれに気づき、逃げる長吉を救いあげ、三好隊を吸収します。

そして、家康の本陣をみつけ、そこに向け兵を進めるのですが・・・、といったところで、ここから先は原書のほうで。

【レビュアーからひと言】

小牧の戦で、森長可隊が崩されて敗走したとはいえ、兵力的にはまだまだ秀吉勢が格段に優勢である状態の中、秀吉は家康の采配の鋭さに気づくとともに

と彼の将兵の忠誠心の強さに恐れをまし、警戒の念を強めます。現在の兵力差にしか意識のいかない他の武将たちに比べ、その聡さは並大抵のものではありませんね。この聡さと臆病さも、彼を「天下人」へ押し上げた一因のような気がします。

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