プロ・スナイパーと偽った「狙撃事件」に隠れた旧悪を暴け ー 鳴神響一「脳科学捜査官 真田夏希 4 クライシス・レッド」(角川文庫)

医師免許も持つ、高学歴・美貌ながら「ふつうの結婚」を望んで婚活活動を続ける神奈川県警科学捜査研究所所属の腕利きプロファイラー・真田夏希の活躍を描いた「脳科学捜査官」シリーズの第4巻。

熱心な婚活活動を展開しても、捕まえられるのは爆弾魔、バブルから滑り落ちたも学生起業家の復讐犯、愛する女性シンガーを死においやったネットいじめ仇討ち犯という真田夏希が、今回は高い技能をもって被害者が逃げるところを狙い撃ちするスナイパーに立ち向かう。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 織田との時間
第二章 根岸分室
第三章 バカトラマン
第四章 初めての体験
第五章 生きる意味

となっていて、前巻までは、夏希が婚活中に第一の事件の発端に出くわすという設定から始まるのだが、今回はちょっと仕掛けが変わって、警察庁のエリート警察官の織田とのデート中に、彼から、ある狙撃事件の捜査で神奈川県警の根岸分室に出向いて極秘捜査を行ってほしい、との依頼がされるところから開幕。
この要請は、織田からではなく、警察庁の長官官房の参事官からという、上層部からのもので、事件が重大であることを示しているようだが、実は、もっと深い意味がかくされているあたりは、物語の後半のほうで明らかになる。

事件のほうは、厚生労働省の若手官僚・堀尾が神奈川県三浦市の劔崎海岸で拉致された上に銃殺去れる、というもの。彼には、実は外資系の製薬会社との不正が疑われていて、警視庁が内偵中のところ、何者かに狙撃されて殺されれ事件で、警視庁のほうでは、多国籍の製薬マフィアに依頼された世界的なスナイパーの仕業ではという疑いをかけていますね。
で、この犯人が「陰悪も又天誅不遁事」という古めかしい犯行宣言を、堀尾に送っていて、今までの事件同様、夏希を捜査に投入して、犯人のプロファイルづくりやおびき出しをしようという目論見ですね。
ただ、彼女の所属が今回は捜査本部付きでなく、県警の根岸分室という、いわば島流しの所属で、そこのたった一人の職員で、県警上層部の不正を暴いて出世街道から外され、日干し状態にされている「上杉室長」と組んで捜査しろ、という妙な命令である。

そして、この「上杉」という人物、夏希が初出勤するや「あんあたのことは要らないと返事したんだが」と彼女を拒否したり、しぶしぶ捜査につれていっても、海岸の切り立った海岸や山道を遠慮なくつれ回すといった、人使いの荒い人物で、夏希は最初かなり反発するのだが、上杉の意図は物語が進行するにつれはっきりしてきますね。

さらに心臓外科医をしている、古田という大学の勤務医が、公園の池で前の事件と同じように縦断を二発打ち込まれて死亡するという第二の事件が起こります。この堀尾と古田はそれぞれブログをつくっていたのですが、それぞれのブログに「荒らし」をかけてくる「ハヤタ」という人物の存在が明らかになるのと、堀尾の弟から、堀尾と古田、そして生駒という人物と学生時代、仲が良かったのだが、大学二年の時、この三人が警察に取り調べを受けるが、国会議員をしている生駒の父親の力でもみ消しをはかった、ということが明らかになる。そして、その当時、堀尾の住んでいた近所の海で、女子高生の不審な水死事件がおきていることがわかってきて・・・という展開で、ここから先の詳細は原書の報で。

【レビュアーから一言】

今巻で気になった「脳科学」Tipsは

復讐や加罰に人間の脳は快感を覚える。正義の実行に酔う人間は少なくない。ことの男性においては女性以上にその傾向は顕著と指摘されている。その快感はときに、倫理や道徳は色褪せたものとしてしまう。

ということで、とかく悪事を懲らしめるといった行動が行き過ぎてしまう原因を教えてくれる感じがする。俺は正義感が強いからな・・、と自負している方は、ちょっと気をつけましょう。

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