澪に新規出店や旧店の復活、玉の輿の怒涛が押し寄せる ー 高田郁「みをつくし料理帖 心星ひとつ」

上方出身の「下がり眉毛」の女性料理人「澪」が、江戸の小さな料理屋「つる屋」を舞台に、その料理の腕で評判を上げていく「成り上がり」ストーリー「みをつくし料理帖」の第六弾が『高田郁 「みをつくし料理帖 心星ひとつ」(時代小説文庫)』。

前巻までで、火付けといった災難に負けずに元飯田町に「つる屋」を移転後、考案した新作料理や「三方よし」で酒を提供する取り組みなどで常連客を掴んだ「澪」なのだが、世の常として、ここで新店の誘惑とか、天満の旧店の復活とか誘惑話の顛末が描かれる。

【収録と注目ポイント】

収録は

「青葉闇ーしくじり生麩」
「天つ瑞風ー賄い三方よし」
「時ならぬ花ーお手軽割籠」
「心星ひとつーあたり苧環」

となっていて、第一話の「青葉闇ーしくじり生麩」は、あいかわらず新作料理を思案している澪が上方でよく食される生麩の料理を再現しようとする話。江戸では乾燥麩が主流で生麩にはなじみがなく、、生麩そのものから作り出さないといけないのだが、その製法がわからない。思案する澪に常連の坂村堂がアドバイスをする。その話を聞いた小松原は、その製法でつくった麩が店で出さないほうがいいと言うのだが・・・、という展開・澪は、一流中の一流料理店の「一柳」の主人から、料理人の資格に欠ける、と指摘されるのだが・・・という展開。もっとも、話の本筋は、澪の旧主人である「お芳」と再婚したい、とかなり脂ぎった露骨なアプローチをしてくるのだが、それをどう対応したか、という話なのだが、ここは原書で。

第二話の「天つ瑞風ー賄い三方よし」は1作目で、料理人として厳しい評価を「一柳」の主人に下された澪のもとに、旧友 野江の楼主「翁屋」から、吉原で店を出さないかという話がもちかけられる。ところが時を同じくして、永年の仇敵・登龍楼から神田須田町で新しく店を出さないかという話を持ちかけられる。どちらも良い話なのだが、その裏にあるものは果たして。そして澪の選択は・・・、というもの。どちらを選択するかは「澪」の選択の任されることになるのだが、ここでの澪の判断が、定番っぽいのだが、「人情物」の典型で安心いたしますね。

第三話の「時ならぬ花ーお手軽割籠」は、相次ぐボヤ騒ぎで、元飯田町では、火を扱える時間が朝の2時間(午前8時~午前10時)に限られることになった。さて、寒くなりかけの頃、温かいものが出せないとなると飯屋は干上がったも同然。さて、澪の工夫やいかに、という話。彼女が考案したのは

熱した鉄鍋に多めの胡麻油。一日干しておいた例の大根を入れると、じゅっと油が鳴る。焦げ目がついたらひっくり返し、じっくり芯まで火を通す。味醂と醤油を合わせたものを回しかければ、焦げた醤油のに匂いが勝って、鼻の奥から幸せになる気がする。仕上げに粉山椒をぱらり。
(略)
限られた一刻で飯を炊き、大根の油焼きをつくる。今日は青菜を刻んだ菜飯にして、切り胡麻を散らした。

といった弁当なのですが、うーむ、美味そうですな。これに、料理の本道と違う、と一柳の主人・柳吾が説教してくるのだが、当方的には、「頑迷固陋」という言葉が頭に浮かびましたな。この人の店は、高級かもしれんが窮屈でかなわん気がします。ここで、澪のところに、小松原の妹が、澪の武家の養女となって修行して、小松原の嫁になる、という 、という話をもってきて、武家と町娘ということで、叶わぬ恋と諦めていたものが、一挙に現実のものとなってきます。

最終話の「心星ひとつーあたり苧環」はさてさて、澪の恋がどうなるか正念場を迎え始める。澪の想い人、小松原が旗本の御大身で、しかも御膳奉行であることが明らかになります。そして、澪を嫁に迎えようという話がどんどんどんと動き始める。しかし、そうなると「つる家」を離れるのは当然のこととして、野江との縁もこれっきり、しかも料理人としての路も捨てなければ、と澪の心は揺れる、といった筋立て。「心星」というのは北極星のことだろう。天の中心で揺るがない軸の星なのだが、澪の「軸」はどちらに・・、という展開なのですが、結末は持ち越しですかね。

【レビュアーから一言】

澪の身の上に大きな変化をもたらす出来事がおきそうなのですが、彼女の子を揺れ動かすのは、店にやってくる金持ちの常連客ではなくて、月に一度来れるかどうかわからない客の

ふた月に一遍かそこら、懐を紀にしながらもここで旨い料理を口にすると、それだけで俺ぁ息がつけるんだ。まだ大丈夫だ、生きていける、ってな。

という言葉ですね。登場の頃は、女性料理人として侮られていた「澪」がここまで成長したかー、とちょっとほろりといたしました。

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