「雪ひとひら 江戸菓子舗照月堂7」ー 「なつめ」の恋は破れ、兄との再会もままならず・・

篠綾子

徳川綱吉の時代を舞台にして、駒込の菓子屋・照月堂を舞台に、京都で御所侍をしていた両親と兄を火事で失い、江戸の了然尼のもとに身を寄せながら、女性職人見習いの「なつめ」の菓子職人修行を描く『篠綾子「江戸菓子舗照月堂」』シリーズの第7弾。

前巻で、氷川屋の若手の筆頭職人の菊蔵が、「照月堂」へ移籍することを断念し、「なつめ」の恋が叶わなかったのですが、今回、さらにショッキングな事態を迎えます。さらに、なつめが江戸へ来る原因となった、出奔していた兄・慶一郎が姿を現し、再会ができるかも、と思わせるのですが・・、といったことで、、なつめを翻弄する出来事があれこれ起こる巻となります。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 亥の子餅
第二話 寒天
第三話 雁の子
第四話 雪ひとひら

となっていて、まず第一話は、照月堂の女将「おまさ」と、彼女とは義理の仲の長男「郁太郎」の産みの母「よし江」との関係が明らかになります。

といっても、どろどろした愛憎劇ではなくて、「おまさ」と「よし江」、照月堂の主人・久兵衛とは幼馴染の間柄で、最初は、「よし江」と「久兵衛」が世帯をもったのだが、もともと「よし江」はおとなしい性格で体も弱く、最初の子の「郁太郎」を産んだすぐあとに亡くなったという次第。その後、久兵衛は」おまさ」と一緒になったということで、郁太郎と次男の亀次郎の性格の違いは、母親の性格の違いに起因しているのかもしれません。今回、郁太郎は、その産みの母の墓まりに始めて連れてきてもらい、産みの母のことを詳しく知ったったわけで、これから彼の心にどういう陰影をもたらすのでしょうか。

第二話の「寒天」は場所が変わって、京の老舗・果林堂で修行する「安吉」の話となります。あいかわらず、果林堂の本体である宮中の主果餅の禝(くだものつかさ)の柚木家の嫡男・長門の世話と店の下働きのままの「安吉」なのですが、今回、店の主人・九平治や主だった職人が「伏見」への視察旅行への同行を許されます。といっても、彼の働きが認められて職人として引き上げられる、といった話ではなく、彼が世話をしている「長門」に果林動堂がこれからてがけようとする「寒天菓子」の製作を一手に任せようという説得に協力させようというつもりですね。安吉の訥々とした説得に、意固地な「長門」も心を動かし始めるのですが、これが本編にどう関係してくるかは次巻以降の展開です。さらに、安吉が聞き込んだ、「なつめ」の兄の不倫疑惑の話も、「なつめ」のもとへ届くことになります・

第三話の「雁の子」では、照月堂に出入りしていた行商の粂次郎の息子・富吉が、照月堂の職人修行に入ることになります。粂次郎は心臓あたりの病気で急死したのですが、彼は、死ぬ前に息子の菓子職人になる夢を叶えさせてやりたい、と照月堂まで連れて行ってくれるよう、診察してくれた医者に頼んだ、という経緯です。そして、その頼みを受けて、江戸へ富吉を連れてきたのが、出奔していた「なつめ」の兄・慶一郎で、という筋立てです。慶一郎となつめを会わせようと、露寒軒が一肌脱ぐのですが・・・、といった展開ですね。

最終話の「雪ひとひら」では、さらに「照月堂」となつめの恋に大きな変化が訪れます。前巻までで、「たい焼き」のアイデアを盗用したり、屋台の菓子売りの邪魔をしたり、と照月堂の悪どいライバルであった「氷川屋」が、照月堂の元職人で「たい焼き」のアイデアを盗用された「辰五郎」に氷川屋の職人頭になってくれと頼んできます。どうやら、昔からいた親方に辞められ、新たな商売敵の上総屋にマーケットを荒らされ、商売の基礎がぐらついているようです。そして、「なつめ」にはショックなことに、なつめとも仲のよかった氷川屋の跡取り娘・しのぶの婿に、「なつめ」が好きな「菊蔵」がなる話が持ち上がり・・・といった展開で、店のほうも、「なつめ」のほうも大きな転換期にきているようですね。

【レビュアーから一言】

第二話で、「安吉」と「長門」が関わることになりそうな「寒天」なのですが、その起源ははっきりしたものはないようですが、羊羹の銘店「とらや)のHPでは、「 江戸時代は1600年代中頃、参勤交代途上の薩摩藩主島津公が宿泊した宿の主人美濃屋太郎左衛門は、夕食の残りのところてんを戸外に放置したところ、数日後には干物状になっていました。これが寒天の始まりです。」となってますね。さらに、この寒天が菓子に使われるようになったのは、さらに後のことで、1707年頃の書物に寒天を使用した「棹菓子」の記述がみられるようですから、安吉たちは、この寒天を使った菓子の草創期に立ち会っているのは間違いないようですね。

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