企業買収に絡む悪だくみに「倍返し」をー池井戸潤「ロスジェネの逆襲」

池井戸 潤

銀行からの融資を無断転用した上に偽装倒産した会社社長や自分の妻の会社の負債の穴埋めのための浮き貸しをする銀行幹部など悪質な経営者やバンカーに「やられたらやりかえす!倍返しだ!」と、鉄槌を加える半沢直樹シリーズの第3弾が『池井戸潤「ロスジェネの逆襲」(ダイヤモンド社)』です。
前巻でホテル幹部の投資失敗を見逃した末の融資の隠蔽した老舗支店の支店長や、自分の妻の事業の赤字穴埋めに浮き貸しを続けていた銀行役員の不正を暴き、さらには金融庁の札付き検査官を撃退した半沢直樹だったのですが、強気すぎるやり方が銀行内の反発を招き、系列の証券会社へ出向したところでの活躍が見られます。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 椅子取りゲーム
第二章 奇襲攻撃
第三章 ホワイトナイト
第四章 舞台裏の道化師たち
第五章 コンゲーム
第六章 電脳人間の憂鬱
第七章 ガチンコ対決
第八章 伏兵の一撃
第九章 ロスジェネの逆襲

となっていて、まずは半沢の出向先・東京セントラル証券に、新興のIT企業「電脳雑技集団」の社長・副社長夫妻から、同じIT業界で急速に業績を伸ばしている「東京スパイラル」のM&Aの相談が持ちかけられるところからスタートします。

東京セントラル証券は東京中央銀行の系列証券会社なのですが、M&Aの実績はまだまだのところで、思ってもみない依頼に社内は沸きたち、ここで本社の鼻をあかそうと意気込みます。ここで、プランを練るため、セントラル証券内に特別のプロジェクトチームが作り上げられるのですが、メンバーに出来がいいと思えない銀行出向組が入っていて、プロパー組は不満たらたらという、系列関係の会社内でよくある構図が展開されます。

そして、セントラル証券がもたもたとM&Aのプランを練っている最中に、この情報が親会社の銀行に伝わり、あろうとこと親銀行の証券部が無理やりこのM&Aのアドバイザー業務の委託をかっさらっていく、という事態がおきます。

子会社の契約を親会社が横取りするというやり方に憤慨するセントラル証券の社員たちなのですが、さらにこの特別プロジェクトチームの銀行出向組のメンバーが親銀行に栄転する、という怒りの火に油を注ぐことがおきます。セントラル証券の部下たちと親銀行のしわざに憤慨する「半沢」は、なんと今回の企業買収の相手方・東京スパイラルの反M&Aのアドバイザーとして名乗りを上げるのでした。

ということで、今回は親会社でもあり、半沢の出身母体でもある「東京中央銀行」に対して「倍返し」が繰り広げられていくという異例の事態ですね。しかも、半沢の相棒となるのはセントラル証券の部下・森山という男で、彼はロスジェネ世代としてバブル世代、団塊世代の尻拭いをさせられている世代で、ロスジェネからバブルや団塊への「倍返し」という様相も見せてきます。

今巻の読みどころの一つ目は、経験もあり、規模もデカイということを頼んで、子会社のセントラル証券の契約横取りや圧迫を加えてくる親銀行の証券部の驕りの隙きをついて、M&Aつぶしの奇策を半沢や森山が繰り広げていく爽快さと、二つ目は理想に燃えて起業したITベンチャーたちの新旧交代の隙間をついてM&Aをしかけてくる「電脳雑技集団」の本当の目的が明らかになってくるところで、筋立てに二重三重の仕掛けが施されていますよ、とネタバレしておきます。

そして一番溜飲の下がるのは、電脳雑技集団への追加融資を決める取締役会で、半沢が今巻の敵役である三笠副頭取や伊佐山証券部長をコテンパンにやっつけるところではなくて、その後の中野渡頭取と兵藤人事部長、三笠副頭取・伊佐山証券部長の会食のシーンですので最後まで気を抜かないようにしましょうね。

【レビュアーから一言】

今巻は、親会社からの理屈の合わない契約横取りや妨害に対して、弱い立場である子会社が反旗を翻し、弱者が強者をひっくり返していくというところに爽快さがあるのですが、もうひとつ、世の中にワリを食っている「ロスジェネ世代」へのエールも込められているように思います。それは最後のほうで、半沢や森山たちセントラル証券の社員たちの祝勝会で、半沢が

あと十年もすれば、お前達は社会の真の担い手になる。そのとき、世の中の在り方に疑問をいだいてきた君たちだからこそ、できる改革があると思う。
(略)
お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはじだ。世の中を変えていけるとすれば。お前たちの世代なんだよ。失われた十年に世の中に出た者だけが、あるいはさらにその下の世代が、これからの十年で世の中を変える資格が得られるのかもしれない。ロスジェネの逆襲がこれからはじまるとオレは期待している。

というところに表れているように思います。老兵は、この世代をしっかりとサポートする義務があるような気がしています。

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