若手ミステリ作家の移住した「田舎」は事件に満ちていた=池井戸潤「ハヤブサ消防団」

五年前にミステリ作家の登竜門となる「明智小五郎賞」を受賞して、ミステリ作家としてデビューしたものの、最近はマンネリ状態に陥っている若手作家が、移住して「田舎生活」を父親の生まれ故郷で、消防団に加入させられたことをきっかけに、田舎の様々な行事に駆り出され、否応なく田舎生活に馴染んでいったところでおきた、集落の家への連続放火事件と殺人事件の謎を解いていく、田舎生活ミステリーが本書『池井戸潤「ハヤブサ消防団」(集英社)』です。

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あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 桜屋敷の住人
第二章 だんじり祭り
第三章 消防操法大会始末
第四章 山の怪
第五章 気がかりな噂
第六章 夏の友だち
第七章 推理とアリバイ
第八章 仏壇店の客
第九章 没落する系譜
第十章 オルビスの紋章
第十一章 或る女の運命について
第十二章 偽の枢機卿
最終章 聖地へ続く道

となっていて、物語は本編の主人公である、ミステリ作家の「三馬太郎」が、父親の実家のあった中部地方のU県S郡の「八百万(ヤオロズ)町)へ移住してくるところから始まります。5年前にミステリの作家の登竜門といわれる賞を受賞し、そのころは前途洋々と思われたのですが、徐々に出版部数も減り、将来に先細り感を覚え始めた「太郎」は、父の生まれ故郷の八百万町のハヤブサ地区の景色に癒されたことから、東京を離れ移住を決行します。
父が生前改造していた田舎家に住み始めた「太郎」を地元の人たちは歓迎してくれて、この地に根を張ることを決意した「太郎」は自治会にも加入し、本格的に地元へ馴染み始めます。そして自治会の寄り合いの後、若手に連れられていった地元の居酒屋「サンカク」での四方山話の成り行きから「消防団」にも加入することとなり・・と、「太郎」の「消防団員」生活が始まっていきます。

「消防団」とはいっても、地域の自主消防団なので、勤務的には非常勤。太郎はミステリ作家をしながら、消防団員として、地域の見回りや消火訓練に参加するのですが、その実態は工務店に勤めている同年輩の「勘介」とつるんで、居酒屋「サンカク」で消防団の分団長の宮原や副分団長の森野、消防団員の勘介や陽太、消防団の顧問格の山原賢作たちの酒を酌み交わす毎日です。

田舎生活を満喫し、精神的な余裕ができたせいか、ミステリの創作のほうも好調で、さらに、地元「ハヤブサ」のPR動画をつくるグループに参画している、名古屋のPR会社に勤めている映像クリエーター「立木彩」とも知り合いになり、と「田舎ライフ」は順風満帆です。

太郎が移住してからしばらくして、彼の消防団加入を歓迎する入団式が開かれるのですが、そのさなかに、ハヤブサ地区の家に火事が起き、入団早々、消火活動に駆り出される太郎だったのですが、実はこの地区ではひと月まえと今月、二軒の家で相次いで開示が起きていることを教えられます、今回も含めて三軒の火事はいずれも火元のない所から発生しているため、放火ではないかと疑われ、さらに放火犯ではないかと消防団のメンバーが密かに疑っていた、村の鼻つまみ者の若者が滝つぼが死んでいるのが発見され、と思わぬ形で、「ミステリ作家兼消防団員」の三馬太郎は連続火事と不審死の真相究明に乗り出すこととなり・・という展開です。

そして、田舎町の中をあちこちに出没しても怪しまれない人物を調べていると、太陽光発電の事業会社・タウンソーラーが用地買収でこの地区の家々を訪問していることがわかります。さらに火事が起きた家は、いずれもその会社の営業マンによる買収提案の訪問を受けている上に、親の介護や事業不振で金の工面に苦労している家ばかりで、当初渋っていたにも関わらず、火事の後の金策のため所有していた山林をその会社に売却していることがわかります。

その会社の営業マンが土地買収を進めるため、放火を繰り返しているのではと疑う太郎だったのですが、三番目の火事のときに別の家を訪問していたことがわかり、推理は袋小路に。しかし、その後、その太陽光発電の会社は、凶悪事件を起こして解散を命じられた新興宗教団体の後継組織のフロント企業であることがわかり、事業用地ではなく教団の拠点の土地確保が目的だったのでは、と疑惑が広がります。さらに、太郎と親しくなった映像クリエイターの「立木彩」が、以前その教団の広報セクションにいたことも明らかになり・・といった展開です。

この「立木彩」の疑惑は、彼女が教団からの脱会者で教団から狙われているため身を隠して生活していることを自ら告白して、一旦は疑いが晴れ、教団の村人への布教拡大のせいか離檀する檀家が出始めていることを危惧する村の寺の住職「江西」とともに太郎の犯人捜しの重要なパートナーになっていくのですが、気を許してはいけないのかもしれません。

さらに、八百万町の町長・信岡が「ハヤブサ集落」のPR動画をつくる企画の邪魔をしてくるのですが、それは動画嫌いもあるのですが、「ハヤブサ集落」に対する彼の母親の代から受け継いだ「恨み」のようなものも絡んでいるようです。
そして、その信岡もハヤブサの「随明寺」を離檀したいと江西に伝え、タウンソーラーとの親しい関係が明らかになるのですが、その信岡の家が度は火事にみまわれ、という展開です。

少しネタバレしておくと、最初、容疑者と思っていた人物が実はそうではなく、仲間や味方と思っていた人物が実は裏切り者で、と敵美香方がくるくると替わっていって、最後は「勘介」と「賢作」以外見方はいないんじゃね、といった感じで物語と推理が目まぐるしく展開していきます。
そして、最後はかなりスケールの大きな因縁話もとび出してきますので、最後まで気を許さずに読み透しましょうね。

レビュアーの一言

最初は売れなくなった若手ミステリ作家が活躍する田舎の事件解決ミステリーかな、と思わせておいて、サスペンスあり、仕掛け満載の物語に仕立て上げられているのは、さすが「半沢直樹」シリーズや「花咲舞」シリーズを始め、たくさんの人気シリーズを生み出している作者の手練れの技ですね。読者はそれに従って、楽しんで自分なりの推理を働かせていくだけでいいのですが、おそらく大多数の人の推理は「ハズレ」でしょうね。

さらに本作は2023年7月13日から、テレビ朝日系で、三馬太郎役に「中村倫也」さん、藤本勘介役に「満島真之介」さん、立木彩役に「川口春奈」さんのキャストでテレビドラマ化されているのですが、名俳優たちが、二転三転する筋立てをどう演じていくかが見ものです。

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