中小企業の「心意気」と「技術力」を見せつけろ ー 池井戸潤「下町ロケット」(小学館文庫)

阿部寛さん主演でテレビドラマ化されたので、ご存知の方も多数とは思いながらも、半沢直樹シリーズに続いての池井戸氏の人気シリーズで、下町の工場が脚光を浴びた一因でもあるかな、と当方では思っている。

【構成は】

プロローグ
第1章 カウントダウン
第2章 迷走スターダスト計画
第3章 下町ドリーム
第4章 揺れる心
第5章 佃プライド
第6章 品質の砦
第7章 リフト・オフ
エピローグ

となっていて、下町のバルブなどの製造をやっている中小メーカーの佃製作所が舞台の、血湧き肉躍る、中小企業の経営者始め従業員の、大企業と宇宙開発の大規模プロジェクトを相手にした、サクセスストーリーである。

【あらすじと注目ポイント】

物語の発端は、佃製作所が「ナカシマ工業」というメーカーから特許権侵害で訴えられるところからスタート。

このナカシマ工業、こうした法廷闘争でパテントを手に入れたり、ライバルメーカーを傘下に入れたり、とかなりの悪役仕立てになっている。さらには、このトラブルで出資銀行も手を引こうとしたり、という、お決まりの試練があるわけで、大企業のあくどい手口や銀行の冷たさに、佃社長とともにこちらも腹わたを煮えくりかえるところで、舞台が突然変わって、大団円となるところは、さすが作者の手練れの技ですな。

そして、物語はこれが出発点で、この訴訟騒動で自社の持つ特許を精査したところから、この物語の本番の国産宇宙開発プロジェクト参画へのサクセスストーリーが始まるのである。

もちろんこの道のりも波平らかとはいかないわけで、このプロジェクトを手動する「帝国重工」という大財閥特有の自社開発にこだわる大企業のプライドと、自社の技術力にこだわる佃製作所との間で、数々のバトルが繰り広げられる。
見下してかかる「帝国重工」の宇宙航空部の技術部隊や検査・評価部隊を相手に、佃製作所の技術者や営業マンが自分のプライドを取り戻して、逆転していくところは、日本人の判官びいきのDNAをかなり刺激して、胸がスッとすること請け合いである。

もっとも小説の形を借りたビジネス本とちょっと違うのは、宇宙技術開発の研究者の夢敗れて家業を継いだ「佃社長」がロケット関連の技術に研究開発費をつぎ込むのが気に入らない技術者が納入品に不良品を混ぜたり
、パテントの売却に応じない社長の方針に、営業の若手が反発するなど、普通のビジネス書なら、社長の想いについていきそうな層が反旗を翻すところが妙な現実味を感じさせる。

【レビュアーから一言】

本作は池井戸氏か直木賞を受賞した作品でもあって、読者をぐいっと、佃製作所の面々に感情移入させて、大企業のやり方に憤慨させたり、佃製作所の社員や顧問弁護士の起死回生の一打に拍手喝采させたり、とか最後まで引っ張りまわす技は流石である。
あれこれ言わずに、作者の術中で楽しんだほうがよさそうですね。

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