半沢直樹の「倍返し」の始まりの物語ー池井戸潤「オレたちバブル入行組」

池井戸 潤

バブル絶頂期に都市銀行に入行し、これで一生安泰と思っていたところが、バブル崩壊に伴う都市銀行再編のためポストは減少し、経営環境は先行き見えない中で中堅バンカーが、私腹をこやす悪徳取引先や、背任上司に「倍返し」の復讐をする痛快ビジネスストーリー「半沢直樹」シリーズの第1弾が『池井戸潤「オレたち花のバブル組」(講談社文庫)』です。
堺雅人さん主演のTVドラマでは第1シリーズの前半部分のところですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 就職戦線
第一章 無責任論
第二章 バブル入行組
第三章 コークス畠と庶務行員
第四章 非護送船団
第五章 黒花
第六章 銀行回路
第七章 水族館日和
終章  嘘と新型ネジ

となっていて、まずは、半沢直樹の就活のところが導入部になります。半沢は慶応大の経済出身で、当時花形であった都銀の就職戦線を見事勝ち抜いた、当時の「勝ち組」という設定です。

この時、知り合いになるのが同じ大学の「渡真利」「近藤」「苅田」「押木」というメンバーで、3・11テロでアメリカで命を落とす押木を除いて、他のメンバーは以後の「半沢直樹」シリーズで、半沢を強力にサポートしていく同期入行組です。当時彼が入行したのは「産業中央銀行」で、別シリーズの主人公「花咲舞」は、合併の相手方の東京第一銀行入行となってます。花咲舞シリーズはまた別途レビューいたしますね。

さて、物語のほうは、入行してから十数年後、バブルが弾け、都市銀行の倒産、再編が進み、産業中央銀行も東京第一銀行と合併し、東京中央銀行となり、バンカーとして将来を夢見ていた半沢は大阪西支店の融資課長として、融資先の「西日本スチール」という会社の倒産で、5億円の回収が危うくなっているという状況から本格的なスタートです。

で、この貸付というのが、もともと支店長の浅野がリードして融資していたものであるにもかかわらず、焦げ付きの責任をすべて半沢と彼に部下に押し付けようとし、本部の監査が入ってきます。上司の支店長は元東京第一銀行の出身者で、産業中央銀行出身の半沢への対抗意識がある上に、本社の人事部の出身であったコネを使って、あのてこの手の半沢の評価を下げて、今回の焦げ付きは、半沢の失策となるよう画策してきます。これをどうやって跳ね除けるのか・・・、といった展開です。

ところがここで、この倒産が、バブルが弾けた後の長引く不況で耐えきれなくなった中小企業が耐えきれず倒産しものと思いきや、この西日本スチールの社長・東田は今まで銀行からの融資をごまかして粉飾しているのでは、という疑惑が生じます。半沢は西日本スチール倒産の巻き添えとなった「竹下金属」の社長・竹下と、東田の計画倒産と粉飾決算で、ちょろまかしていた融資金の回収をすべく動き始めるのですが、その粉飾は東田だけでできるはずもなく、銀行内部の協力者がいることがわかります。ここで、半沢の本格的な反撃の狼煙があがり・・・、という筋立てですね。

半沢に罪をなすりつける支店長・浅野やコバンザメの次長・江島の憎憎しさや、焦げ付きの原因を曲解して半沢の責任にしようとする本店業務統括部や融資部の監査メンバー、そして粉飾決算をしていながら罪の意識もない融資先の社長・東田の悪どさに、読んでいる方も怒りが「ふつふつ」と煮え立ってくるので、半沢直樹の最後の「倍返し」にはスカッとすることうけあいです。

読みどころは、銀行からの融資を海外事業への投資資金へ転用している東田の悪巧みを暴くために、西日本スチールの元経理担当者や、東田が贔屓にしているクラブのオネーチャンと彼女の浮気相手から聞き出すために際どい手を使って、しつこく陥落させていくところが一つ目。二つ目はそうやって手に入れた情報をもとに、半沢に責任を押し付けようとしている銀行の上司・浅野支店長をメールをつかって追い詰めていくところですね。もっとも、とことん浅野を追い詰めてやろうとしていたのですが、最後に彼の家族からの「嘆願」でその手を緩めてしまうのは半沢らしいところではあります。まあ、この結果、彼がこのシリーズで活躍していく、東京中央銀行営業第二部にポジションを得ることになるのでよしとしましょうか。

【レビュアーから一言】

半沢直樹が鮮やかな逆襲をしていく陰には、彼への協力者がシリーズのどの巻でもでてくるのですが、中でも全巻を通じていいサポートしてくれるのが、同期で融資部にいる「渡真利」です。本店のほぼ半分が知り合いという人脈を使って、監査の動向であるとか、取締役や頭取の気持ちとか、銀行のトップシークレットに属することをリサーチして、半沢へ教えてくれます。半沢の「倍返し」も彼がいないと不発に終わっていたのでは、と思わす貢献度ですね。

Bitly

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