航空会社再建の裏にある「悪事」を片付けろー池井戸潤「銀翼のイカロス」

池井戸 潤

地位や権力をかさにきたり、隠れ蓑にして私腹を肥やしたり、部下を犠牲にして成り上がろうとする者たちに対して「やられたら、やり返す。倍返しだ」と鉄槌を加えていく、半沢直樹シリーズの第四弾が本書『池井戸潤「銀翼のイカロス」(ダイヤモンド社)』です。
前巻でIT企業の企業買収の陰に隠されていた偽装経理を見抜き、銀行の信用失墜と大損失を被るのを未然に防止し、銀行に復帰した半沢が、今巻では日本有数の航空会社の再建のために政府が要求する無理難題から銀行を救い、さらにはその要求の裏に隠れた悪事を暴き出していきます。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章  ラストチャンス
第一章 霞が関の刺客
第二章 女帝の流儀
第三章 金融庁の嫌われ者
第四章 策士たちの誤算
第五章 検査部と不可解な融資
第六章 隠蔽ゲーム
終章  信用の砦

となっていて、今巻は営業第二部長のもとに呼ばれた半沢直樹が部長の内藤から新しい担当先として「帝国航空」を命じられるところからスタートします。今まで、半沢が関わって、その名を有名にした企業に比べると「超・大物」なのですが、帝国航空の内情は、政治的圧力で撤退ままならない赤字路線、複数に別れたままで会社と対立姿勢の強い労働組合、機材の老朽化、年金や福利厚生水準の引き下げを容認しないOB、そして名門意識の高い経営陣、というもので、かなりの難物です。

そして、ここで一番の厄介事になるのが、政権交代した新政権が旧政権がつくった再建プランをすべてご破産にし、新しく任命した人気キャスター出身の女性国土交通大臣が組織する私的タスクフォースが提案してくる再建プランです。

なんとその再建プランは、銀行団が保有する債権の70%の放棄を求めるもの。しかも、銀行側と協議してどうこうするという姿勢はなく、白井大臣もタスクフォースの責任者のコンサルタントの乃原も、はなっから銀行を悪者にし、上から目線で「債権放棄」を命じてくる、という態度で、まあ、このシリーズ特有の「悪役感」満載の役回りを演じています。

この国家権力の押し付けを、半沢は見事振り払うことができるか、というのが今巻なのですが、敵方は国家をバックにしているだけに、半沢と帝国航空で作り上げた再建計画に内部から「嘘の数字」をいれさせて計画の信憑性を揺さぶったり、金融庁を動かして、半沢の仇敵の黒崎に臨時の金融検査を仕掛けて、東京中央銀行の融資の妥当性をゆさぶったり、とまあ、かなり大掛かりな妨害をしかけてきます。

まあ、ちょっとネタバレすると東京中央銀行の常務が、タスクフォースの乃原と幼馴染で、弱みを握られているという隠し技まであるので、かなり半沢には不利な状況と言わざるを得ませんね。

読みどころの一つ目は、銀行団に求められている7割の債権放棄案を潰すため、主力行である開発投資銀行のキレ者女性部長の谷川の説得に奔走するのですが、もともと政府系銀行である開発投資銀行はなかなか思うように動けません。とうとう、債権放棄を呑むかどうか意思表示を求められる会議の時に、谷川部長の口から出た言葉はなんと「債権放棄拒否」。当初政府寄りだった開発投資銀行の意志を翻させたのは、新政権のある政策だったのです・・・、というところですね。この時の白井大臣や乃原の動転ぶりにまず溜飲が下がります。

二つ目は白井・乃原の失策を挽回するため、白井大臣の後ろ盾で新政権の有力者の「箕部」を使って乃原がじかに中野渡頭取へ圧力をかけ、債権放棄を再要求してきます。そのネタは、東京中央銀行の合併元の一つ、東京第一銀行が箕部へ行っていた政治資金用途の迂回融資です。これが金融庁へリークされれば東京中央銀行の信用が大失墜することは間違いないというものですね。
一方、半沢のほうも、この不正融資の存在について別ルートから入手し、独自の調査を開始します。箕部の地元選挙区の支店の情報をたぐりながら、本店の検査部で干されているとみせかけて中野渡頭取の密命を受けて旧T派閥の不正経理の状況を調査している「富岡」の協力を仰いで調査を進めていくのですが、前々巻で金融庁の検査から銀行の秘密を守った手口の逆をついて、今回秘匿されていた情報を探り出す手口は見事ですね。

そして、その迂回融資の実態を調べ上げ、その詳細を中野渡頭取のもとへ届け、国からの債権放棄の再要求を呑むかどうかは、頭取の判断に委ねられます。そしてその判断を受けて半沢はどう動くのか、というところです。対応によっては、中野渡頭取の引責もある、今までにない銀行の行く末に関わるものですが・・・。

どちらも山場は、白井亜希子国交大臣とタスクフォースの乃原が、マスコミをあつめて設定するパフォーマンスの席上での半沢たちの大反攻で、どちらもスキッとすること間違いないです。

【レビュアーから一言】

今巻は発表された時期とキャストが、日本航空の再建劇によく似ているといわれていたもので、今回のTVドラマの際も、当時の関係者などから半沢の提案は当時の銀行団のものじゃない、とか見当外れの批判も聞かれたところです。僕としては、実際の企業再建のものをなぞっていくべきではなくて、今まで、地位と権力をかさにきてやってくる奴らを倒してきた半沢直樹というヒーローが、今回は国家権力をかさにきてやってくるラスボスとの決戦に臨むといったベクトルで読むべきと思います。
困難なことが起きたときの処し方のヒントとするのはよいですが、実際の出来事に必要以上に拘泥することはないと思います。

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