幕末の嵐の気配の中、「あん」は女性料理人として飛躍する=柴田よしき「あんの信じるもの」「あんの明日」「あんとほうき星」

父親の借金のかたに女衒に売られたのが、ひょんなことから、品川宿の料理が自慢の旅籠・紅屋の台所に女中奉公をすることとなった「おやす」が紅屋の料理人頭「政さん」や、同じ品川の脇本陣「百足屋」の一人娘で日本橋の薬種問屋にお嫁にいった「お小夜」たちに囲まれ、自らのとても「鼻が効く」という特技を活かしながら江戸時代には珍しい女性料理人として成長していく柴田よしきさんの「お勝手のあん」シリーズの第6弾から第8弾が「あんの信じるもの お勝手のあん 6」「あんの明日 お勝手のあん 7」「あんとほうき星 お勝手のあん 8」の三作です。

前巻では品川を襲った颱風によって紅屋をはじめ多くの旅籠が壊滅状態となったところで、紅屋が立て直されるまでの間、江戸の深川の振り売りの煮売り惣菜屋を手伝っていた「お安」だったのですが、今回は、品川に還り、新しくなった「紅屋」の台所で、新たに料理人見習いの暮らしが始まります。

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あらすじと注目ポイント

第6巻 「あんの信じるもの お勝手のあん6」=お安は品川・紅屋に復帰し、料理の腕をさらにUPする

第6巻の構成は

一 新しい紅屋と新しい小僧さん
二 かんざしの価値と南蛮の菓子
三 嫌がらせ
四 赤い前掛け
五 一郎さんと髭の男
六 春を探しに
七 羊羹の夜
八 魚河岸
九 菊野さんの決心
十 夏の始まり

となっていて、冒頭は、深川で煮売り屋の「おいと」の手伝いをしていた「お安」が、新しく改築のなった品川の「紅屋」へ還るところから始まります。颱風で壊滅状態からの早い復帰で、宿屋の台所の設備や道具も一新されているのですが、それとあわせて同じ台所女中仲間だった「おまき」が嫁にいくため里へ帰ったり、新しく「とめ吉」という小僧がはいってきたり、とメンバーの入れ替えも起こっています。

このとめ吉という男の子は、以前「お安」の同僚で、料理人修行がイヤで出奔した勘太と違って、大家族の農家の末っ子のせいか、体力もあり、力仕事も厭わず、お安はひとまず安心、というところですね。

ところが好事魔多し、とはよく行くことで、廃業してしまう宿屋もある中で、順調な復興をしていく「紅屋」を妬んだ同業者もいるようで、宿屋の主人が役人に賄賂を使っているといった悪評が流されるといった嫌がらせがあるのですが、中盤では、新しく入った「とめ吉」が味噌まみれにされて川沿いの草むらに放り出されている、という嫌がらせに発展します。しばらくしてから、お安は江戸からきた岡っ引きらしい髭の男に事件の様子を尋問され・・といった展開です。

後半部分では、政さんと一緒に魚河岸の行くついで、日本橋の薬問屋へ嫁にいったお小夜のところへよって、ものぐさなお小夜の旦那のために、「噛むのが楽しくなる」料理をつくったり、薩摩の篤姫の御付きをしていた「菊野」が、遠州掛川で「団子屋」を継ぐという話を聞いて、菊野のために、評判となるような新作団子ろつくったり、と「お安」の料理の腕が炸裂しているのですが、どんな料理ができたのか、は原書のほうで。

第7巻 「あんの明日 お勝手のあん 7」=「お安」は幕府天文方のプロポーズを断り、料理の道を選ぶ

第7巻の構成は

一 うなぎの味
二 若旦那さまの秘め事
三 一郎さんの憂鬱
四 虹とぶた
五 おゆうさん
六 桔梗
七 新しい仲間
八 ぶたと梨
九 霜月の夜
十 薬と八角と桔梗さん

となっていて、冒頭では、台所の中心人物になりつつある「お安」に、板前頭の「政さん」から「うなぎ」を使った新しい料理を考案するよう宿題がだされます。蒲焼ともうなぎ飯とも違う、夕食のメインとなる新しい「ウナギ料理」に悩む「お安」なのですが、その際中に、江戸で知り合った幕府の天文方・山路家の後継ぎの山路一郎から、「自分の妻になってくれ」という求婚され、料理とプライベート双方で悩みこむ「お安」の姿が描かれます。

中盤では、前巻で「とめ吉」に味噌を塗りたくるなどの暴行を働いた犯人が明らかになります。その犯人は北品川にある「仙台屋」という旅籠の三代目の若だんなで、紅屋の若主人が馴染みにしている「桔梗」という遊女にふられた腹いせにとめ吉に意地悪をした、ということらしいのですが、じつはその話には裏があって、その桔梗という遊女は紅屋の若女将の生き別れになった妹らしく・・という筋立てです。

姉妹が一人の男を巡って相争うドラマの始まりか、と思わせるのですが、このシリーズはそういうドロドロ劇には踏み込みませんのであしからず。

後半部分では、山路一郎のプロポーズを受け入れて幕臣の妻女となるか、このまま旅籠の女料理人の道を選ぶか、さんざん悩んだ末に、「お安」が決断を下します。巻の最後では、彼女が今までやったことのなかった「ももんじ料理」、豚肉料理に挑戦して、見事、和風「東坡肉」を調理しているのですが、この筋立てで、彼女の決断の内容はだいたいわかりますよね。

第8巻 「あんとほうき星 お勝手のあん 8」=「お安」は「花見弁当」で品川の町を再現する

第8巻の構成は

一 花よりだんご
二 伊藤武次郎さま
三 花見弁当
四 風が変わる時
五 心配事
六 ころりと彦根のお殿さま
七 とめ吉の病
八 疫神
九 桔梗さんの旅立ちと料理帖
十 ほうき星と夏じまい

となっていて、「お安」の先輩板前だった「平蔵」が川崎宿で料理屋を開業するため、紅屋を去ったため、お安が「二番包丁」の役目についています。野菜から魚までほとんどの品の仕入れと料理の下ごしらえにすべて責任をもたないといけないので、お安もフル回転で働いています。

そんなところに飛び込んできたのが、品川の料亭や旅籠がそれぞれ「花見弁当」をつくって競い合う「花見の宴」が開かれることになり、脇本陣でいつも世話になっている「百足屋」の推薦で、小さな旅籠ながら「紅屋」にも出品の話が舞い込んできます。そして、その「献立づくり」をお安が考え要ることとなり・・という展開です。お安が考案した「品川」を再現した花見弁当の中身はどんなものか、原書のほうでお確かめを。

そして「二 伊藤武次郎さま」では、紅屋を出奔して知り合いの塾の下男となった「勘太」が「侍」となって登場します。会津藩の「伊藤伝三郎」という人の養子となり、会津へ帰藩する途中に品川に寄ってくれたのですが、「会津藩」に降りかかる幕末の騒乱を考えると、勘太も無事では済まない気がしますね。

中盤では、とめ吉がはしかにかかって高熱を出して生死の境をさまようことになり、紅屋の台所もてんてこまいになるのですが、この話の合間合間に、江戸で井伊大老が専横の限りを尽くし始めたことや、島津斉彬がコレラで急死し、お安と仲の良かった薩摩藩士たちも国に帰還させられたり、逼塞させられたりといった目にあってます。いよいよ、幕末の動乱が「お安」の近くまでひたひたとやってきている感じですね。

そして後半では、「とめ吉」が意地悪された騒動の元凶であった「桔梗」が品川を離れ、京都へ行くという決心を決め、「お安」に告げてきます。桔梗と紅屋の若女将となっている姉の「おゆう」との別れの宴と「とめ吉」の快気祝いを兼ねた「夏じまいの宴」を開くのですが、どんな料理が披露されるかは原書のほうでお確かめを。

ちなみに、桔梗が京都へ行く原因となったのは、情夫であった水戸浪士になにやら不穏な気配が見えたから、ということなのですが、この時節と「水戸」ということを考え合わすと、幕末を揺るがしたあの暗殺事件かな、と思うところであります。

レビュアーの一言

第6巻から第7巻までの時代設定は安政4年から安政5年となっています。安政4年には老中・阿部正弘が急死、安政5年には日米修好通商条約など、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、ロシアの五カ国との通商条約が締結され、井伊大老による安政の大獄が始まった年ですね。さらにこの年には十三代将軍。徳川家定(おあつ様の旦那さんですね)、十一代薩摩藩主・島津斉彬が死去しています。

これから血なまぐさい幕末の騒乱の嵐が吹き荒れていくのですが、お安の周辺はまだ少し風が少ない時期が:続くような感じがしています。

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