奈穂の高原カフェには高原の爽やかさと料理の温かさが共存しているー柴田よしき「草原のコック・オー・ヴァン」

バブルの頃には観光客で賑わっていたのだが、バブル崩壊後、すっかり寂れてしまった元リゾート地の「百合が原高原村」で、東京からやってきて、廃ペンションを改造してカフェを始めた女性・菜穂のカフェ経営の2年目を描いたのが本書『柴田よしき「草原のコック・オー・ヴァン 高原カフェ日誌Ⅱ」(文春文庫)』です。

前巻で、旦那との離婚を果たし、町役場勤めの「涼介」との新たな恋も始まった「菜穂」なのですが、その涼介が長期のアメリカ研修で地元を留守にする中、地元で昔ワイン栽培をやっていた人の孫となる青年がやってきて、新たな波紋を巻き起こすこととなります。

構成と注目ポイント

構成は

「荒野」
「宴」
「東京」
「新年」
「挫折」
「草原の輝き」

となっていて、前巻の「風のベーコンサンド」の後半で、この「「百合が原高原」にオープンした大手リゾートホテルの「リリー・フィールド・ホテル」は高級リゾートホテルとして成功していて、菜穂のカフェや、菜穂の友人の南が家族で経営する「ひよこ牧場」も、結婚式の2次会や、ハム・ソーセージ需要が増えていて、経営にも好影響がでているようです。このあたりは「囲い込み」が激しくて地元への恩恵の少ないところとはちょっと一線を画していて、地元との「共存共栄」をする経営方針のようで、地元の農家も一安心というところなのですが、そんな中、荒れ果てている農地を、都会から来た青年が買い求め、「ワイン栽培」を始めようとしていることが明らかになります。

その青年は、以前、その農地でワイン栽培とワインづくりをしていた一家の孫にあたるようなのですが、彼のもとを尋ねてくる取材陣が現れ、彼が人気ロックバンドの元・主要メンバー「森野大地」、通称「ダイチ」といって、メンバーの自殺が原因で引退したギタリストであることが判明します。さらに、そのメンバー「カン」の自殺の原因は、彼とそのメンバーの対立にあったのでは、と噂されていることも。

森野大地の「ワインづくり」にかける気持ちは元芸能人の気まぐれではないのか、という疑惑を菜穂をはじめ村の人々が抱く中、菜穂のカフェでランチをとるダイチに、自殺した「カン」のファンクラブのリーダーだった女性が、コーヒーをぶっかけるという事件も勃発して、という展開ですね。

さらに、この地でワイン栽培をやっていてダイチの祖父母のことを快く思っていない村人が出てきて、ダイチの行動を批判したり、心配してダイチのもとを何度か訪れる菜穂にダイチと涼介の「二股疑惑」が噂されたり、とまあ、田舎特有の人間関係の難しさが姿を現します。

ただでさえ客の少なくなっている高原の地での、菜穂のカフェ経営は無事2年目坂を越えられるのか、といった筋立てです。
おまけに、村役場の若手有望職員として、高原村の地域活性化を一身に背負っていた涼介が企画したイベント企画が詐欺にあい、村の財政に穴をあける事態もおきます。

さあ、菜穂のカフェ経営と恋の行方っはどうなるのか・・・といった筋立てなのですが、詳細のほうは原書でどうぞ。少しネタバレしておくと、爽やかで安心する結末になってますので、安心してお読みください。ドロドロ恋愛ものや、夢破れた地域おこしものにはなってませんので念のため。

レビュアーからひと言

基本は新米カフェ店主の奮闘ものですので、菜穂のつくる「カフェ飯」も本シリーズの魅力の一つで、本巻の表題にもなっている「コック・オー・ヴァン」は

コックは鶏肉、ヴァンはワインだ。つまり、鶏肉のワイン煮込み。この場合のワインは、普通は赤を使う。
気取ったフレンチ・メニューではなく、フランスの家庭料理で、作り方も難しくはない。鶏肉をソテーしてから赤ワインで煮込む。ほぼそれだけで出来てしまう。赤ワインは煮詰めていくと醤油に似たアミノ酸の旨味が出るので、出来上がった煮込みは日本人にも馴染みのある、どことなく懐かしい味になる。
味の決め手は塩加減と、赤ワインそのものの風味。

といった感じです。高原の爽やかな冷気と料理の温かさを感じさせる一作に仕上がっていると思います。

Bitly

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