市立高校の七不思議が過去の事件の謎をとくー似鳥鶏「昨日まで不思議の校舎」

某市立高校の美術部のたった一人の部員で、なにかと揉め事を引き寄せる体質の「葉山くん」を語り部にして、ヒロインは、演劇部の部長で、葉山くんを女王様的存在の「柳瀬沙織」。サブキャストに演劇部所属の演出兼照明担当の「三野小次郎」、吹奏楽部所属の小動物系キャラの「秋野麻衣」、そして、天才にして大変人キャラの「伊神恒」が探偵役を務め学校内でおきる謎の事件を解決していく、「市立高校」シリーズの第6弾が『似鳥鶏「昨日まで不思議の校舎」(創元推理文庫)』です。

前巻までで、探偵役の伊神先輩も卒業して東京の大学へ進学し、市立高校では3年生の柳瀬さんも部活動を引退して受験準備を始め、葉山くんと、三野くん、そして吹奏楽部の秋野さんの三人で事件の解決に臨むことが多くなってきたのですが、今巻では、第1弾のエピローグででてきた、男子生徒が首を切られて壁に塗り込められていた謎の真相が明らかになります。

あらすじと注目ポイント

まず、プロローグのところで、この巻の主題となる市立高校の七不思議の一つ、「トイレの花子さん」の源流らしき話が展開されます。小学生ぐらいの女の子が、なにか怪しいものに追われてトイレに逃げ込む話なのですが、ホラーっぽいスタートのなります。

事件の方は、市立高校の同好会の中でもかなりマイナーなほうに属する「超自然現象研究会」が会報で、市立高校の七不思議を特集することが発端となります。七不思議とは
①「カシマレイコ」さん
 暗くなった校舎に一人いると、脚のないカシマレイコという先生が現れ「脚はどこ?」と質問してくる。正しい答えをしないと脚を引き抜かれる。
②「立ち女」
 木曜日の夕方四時頃になると、何も持っていない女が正門の前に立って学校内をじっと見ている。目が合うと、すごい速さで追いかけてきて殺される。
③「一階トイレの花子さん」
 本館一階女子トイレに、おかっぱ頭で赤いスカートをはき、手に人形をもった小学生の女の子がでてくる。手前から三番目の個室のドアを三回ノックして返事があったときに、間違った答えを言うと、噛み殺される
④「フルートを吹く幽霊」
 芸術棟に出る、「壁男」に殺された吹奏楽部の女子生徒の幽霊で、自分が殺されたことを知らずにフルーの練習をしている。
⑤「口裂け女」
 学校周辺に出るロングコートを着た髪の長い女でマスクをしていて、生徒が通りかかると「わたし、きれい?」と聞いてくる。「いいえ」というと手に持った鎌で首を切り取られる。ポマードをぶつけるか、「ポマード」と唱えると逃げていく
⑥「<天使>の張り紙」
 楕円形の奇妙な生物がケーキを差し出している絵が貼られた建物は、震度六の地震起きると倒壊する
⑦「壁男」
 殺されて首を切られ、壁に塗り込められた男子生徒が、自分を殺した人間を探すため、夜になると壁から出て周囲を徘徊する。人を見つけると、壁の中に引き込もうとして、襲われた人はすごい力で壁に押し付けられ潰される
というものなのですが、シリーズの熱心な読者であれば、ネタバレしている謎はご承知かと思うのですが、今巻では、このうちのネタバレしていない①、③、⑤を、見立てた事件が起きます。

まず①の「カシマレイコ」さんの見立て事件では、校内放送で2年4組の「カシマレイコ」さんを「右脚」が待っているので椿森公園まできてほしい、という緊急の呼び出し放送が入ります。放送室に行ってみると鍵がかかっていて中には誰もいない状態で、放送はパソコンをリモート操作して流したようなのですが、昨日、放送部員が退室したときにはそんなものはなかったことが判明します。いったい、だれがいつセッティングしたのか、という謎解きです。

⑤の「口裂け女」の事件は、「演劇部」、「ミステリー研究会」「吹奏楽部」「美術部」でおきます。「演劇部」では「さよならの次にくる<新学期編>」で葉山くんと添い寝した小道具のマネキンの「ジェシカ」が、首をもがれ、腹に小道具のサーベルを突き立てられた状態で発見され、「ミステリー研究会」では、部室内に貼ってある刑事コロンボのポスター、部室においてあったサバイバルナイフで首のところを切られ、口のところに白いポスターが張ってある状態で発見されます。そして、「吹奏楽部」ではチェロケースの中にアコースティックギターが赤いインクがかけられ、ネックにマスクが引っ掛けられ、ホールのところにナイフのようにフルートが刺さっている、という状態になっています。3件とも、「口裂け女」に殺された被害者に見立ててあるわけですね。さらに「美術部」では、デッサン用のクロッキー人形の頭が外され、マスクがかけられていて、腰の関節部には鎌に見立てた五寸釘が挟み込まれた状態になってます。この4つの事件のいずれでも、近くには「わたし、きれい」と書かれた紙と、草刈り鎌がおいてあるというものです。

そして③の「トイレの花子さん」は、葉山くんと柳瀬さんが、学校の昔おきた事件を聞き込みにまわっていた用務員さんの勤務する用務員室でおこっています。用務員さんが気づかないうちに、部屋の中の引き出しの中に、ブロンドの女の子の木栄人形が、赤インクらしいものが全身にかけられ、「はなこさん」から「私は死んだので、代わりにこの人形を大事にしてほしい」という内容が「ぐにゃぐにゃ」の字で書かれたメモとともに発見されます。

これらの事件では、「カシマレイコ」事件で放送部のドジっ子「辻さん」が容疑者に上げられて放送部の一年生に吊るし上げられたり、「口裂け女」事件では吹奏楽部の部員で、三野くんの憧れの女の子・秋野さんの恋人「フランスくん」が容疑者になったり、彼の浮気疑惑が表に出たり、柳瀬さんに思いを寄せる意外な人物が判明したりと波乱含みです。これらを冷静に「伊神さん」が推理の刃で、真相を明らかにしていくのですは、詳細は原書のほうで。

レビュアーから一言

市立高校の七不思議の見立て事件が、伊神さんや葉山くんの推理で見事解決して、大団円と思いきや、この「カシマレイコ」「口裂け女」「トイレの花子さん」にはそれぞれ過去に原型となる事件が実際に起きていることが判明するところから、今まで隠れていた事件が表に出ていきます。そして、それは「理由あって冬に出る」の「壁男」の怪異の真相に至るものでした、ということで、第1弾からの「もやもや」を解決してくれます。

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