過去の失恋話から始まる謎の数々ー似鳥鶏「さよならの次にくる<卒業式編>」

某市立高校の美術部のたった一人の部員で、なにかと揉め事を引き寄せる体質の「葉山くん」を語り部にして、ヒロインは、演劇部の部長で、葉山くんを女王様的存在の「柳瀬沙織」。サブキャストに演劇部所属の演出兼照明担当の「三野小次郎」、吹奏楽部所属の小動物系キャラの「秋野麻衣」、そして、文芸部部長で天才的変人キャラの「伊神恒」を探偵役にして、高校内でおきる謎の事件を解決していく、「市立高校」シリーズの第2弾が本書『似鳥鶏「さよならの次にくる<卒業式編>」(創元推理文庫)』です。

前巻の「わけあって冬に出る」で、芸術棟の出没する「壁男」の正体を、「伊神」先輩の推理で明らかにし、芸術棟に住み着いていたホームレスを捕まえた上に、棟に塗り込められていた青年の死体も見つけ出して、文化部系クラブの活動場所を大幅に減少させた「葉山くん」たちだったのですが、今巻では、その事件のからくりをたちどころに解いた変人名探偵「伊神さん」が卒業の時を迎えます。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 あの日の蜘蛛男
断章1
第二話 中村コンプレックス
断章2
第三話 猫に与えるべからず
断章3
第四話 卒業したらもういない

となっていて、本巻は『似鳥鶏「さよならの次にくる<入学式編>」(創元推理文庫)』の前編的な位置づけなのですが、それぞれが完結型の話を重ねながら、全体で大きな謎解きになっているという構成です。

まず第一話の「あの日の蜘蛛男」は、「葉山くん」の小学校時代の告発大失敗事件です。彼は小学校の時、「渡会千尋」という女の子が大好きだったのですが、彼女は公立中学ではなく、中高一貫の進学校の女子校に進学するため、卒業式の日に、勇気を奮ってラブレターを渡すという蛮行にでることを決意します。しかし、同級生の通称ネモっちと木場にラブレターを持っているのをみつかってしまい、もみあっているうちに手紙は近くの向かい合ったビルの上に舞い上がってしまいます。あわててそれを取り戻そうと片方のビル「キムラビル」の屋上に昇るのですが、手紙は見つからない上に、ネモっちたちに扉の鍵を閉められ、閉じ込められてしまいます。おそらく手紙は向かいの「第二高橋ビル」の屋上に飛んだと思った葉山くんは、向かいのビルの屋上にしばらくすると移動するのですがその方法とは・・・、という謎ときです。4年後再会した木場くんにそのネタ明かしを迫られるのですが、話をきいた「伊神さん」は即座に解き明かしてしまい・・という展開です。少しネタバレすると、ひさびさに小道具をつかった瞬間移動トリックを見抜けるか、といったところですね。
ちなみに、ラブレターのほうはその時はみつからず、渡会千尋には告白できないままで、4年後にビルの屋上に残っているのを柳瀬さんにみつけられてしまうのですが、その後については原書のほうで。

第二話の「中村コンプレックス」では、前作の「壁男事件」で登場した吹奏楽部のイケメン・東さんのツテで、渡会千尋が進学した女子校「愛心学園」の吹奏楽部のコンサートの演出の手伝い行くというチャンスを掴んだ「三野小次郎」の付録で、「葉山くん」も同行できることとなります。渡会千尋は、愛心学園の吹奏楽部のオーボエのパートにいることがわかったので、密かに再会を期待しているわけですね。
ここで、「石井あゆみ」という猫に似たかわいい少女に出会って、三野くんが惚れてしまうのですが、彼女は東さんの「彼女」。この縁で、愛心学園にお手伝いに来ることができた、というわけですね。
そして、お手伝いのほうは無事終了し、東さんは相変わらずの「モテぶり」を発揮するのですが、ここで「東雅彦は嘘つきで女たらし。・・・」と彼が浮気しているのを、彼女の「石井あゆみ」の前で中傷するビラが発見されます。中傷ビラの犯人は一体誰で、その犯人の目的は・・・、といった謎解きですね。
この話で、葉山くんは渡会千尋に再会できるのですが、彼女は、謎を解き明かした「伊神さん」を好きになってしまい、葉山くんは二回目の失恋を味わうことになります、

第三話の「猫に与えるべからず」では主人公がかわって中学生の「僕」が公園で出会う野良猫と猫に会いにくる「お姉さん」が登場人物となります。「お姉さん」は猫にジャックという名前をつけてかわいがっているのですが、「僕」にはジャックはなつこうとしません。ところが、「伊神」くんはあっという間になつかれて「僕」の嫉妬を誘うことになります。
ジャックをなんとかなつかせるために、餌をあげた「僕」なのですが、翌日、ジャックが死んで公園の池に浮かんでいるのが発見されます。そして、「僕」は、猫を殺したのは「伊神さん」だと主張するのですが・・・という展開です。

第四話の「卒業したらもういない」では、伊神さんたち3年生もいよいよ卒業です。卒業式のあと、伊神さんに声をかけようとした「葉山くん」なのですが、式終了後、伊神さんは姿を消してしまいます。さらに、電話番号も、メールアドレスも変えてしまい、まるでなにかから逃げるような感じですね。そして、彼が住所として学校に登録していた家にいくと、その玄関のドアチャイムの下に英語の「歌詞」のようなものが書かれているのを発見します。果たして、その歌詞の意味するところは・・といった展開です。ちなみに、伊神さんが葉山くんの目をくらまして学校から抜け出したトリックは、前話で結婚のために学校を辞めた立花さんがレクチャーしてくれるのですが、伊神さんが電話番号やメールアドレスを変え、卒業式終了後に姿をくらました理由は後編にならないと明らかになりません。

レビュアーから一言

最初の方は、「葉山くん」の昔の失恋物語から始まって、軽ーいタッチの恋愛ものへ発展していくかと思っていたら、いつの間にか暗い風が漂い始めたような雰囲気です。話の間に挿入する「断章」では。ミステリー作家の「天童」のサイン会とか父親が隠している手紙とか、愛心学園の生徒に生徒の情報を教えてしまった市立高校の教員の独白とかが結合したところで、この黒い雲の中身が明らかになるだろうと思います。

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