部室棟に出現する「壁男」の正体をつきとめろー似鳥鶏「理由あって冬に出る」

ユーモアミステリーの名手といえば、赤川次郎さんや東川篤哉さん、鯨統一郎さんと並んであげられるのが、似鳥鶏さんなのですが、そのデビュー作で第16回鮎川賞受賞作で、某市立高校を舞台に、美術部員の「葉山くん」が演劇部の先輩の柳瀬さんや同級生の三野たちとともに、学校内でおきる謎解きをしていく「市立高校」シリーズの第一弾が本書『似鳥鶏「理由あって冬に出る」(創元推理文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 一日目の幽霊
第二章 二日目の幽霊
第三章 三日目の幽霊
第四賞 四日目の幽霊
第五章 五日目の幽霊
エピローグ

となっていて、目次を見ただけでは、なんのこっちゃなのですが、プロローグは、借金まみれになって、悪辣な高利貸しによって、自らの生命保険で返済させられている男の独白となっています。これが物語の後半になって活きてくるので覚えておきましょう。

物語のほうは、このシリーズの主人公「葉山くん」が、吹奏楽部の同級生・秋野舞から、一緒にこの高校の文化部の部室が集合している「芸術棟」に泊まりこんでほしいという依頼をされるところから始まります。この芸術棟には、昔、殺されて首を切られ、壁に塗り込まれた男子生徒がそのままになっていて、夜になると壁からはいでてきて、人間を見つけると捕まえて、壁の中に引きずり込もうとするという「学校の階段」があります。ついでに、最近、吹奏楽部のフルートのパートをしていた「立花」という女子生徒が「壁男」に襲われて行方不明になっている、とう尾ひれがついています。文化祭が近いのに、この噂で吹奏楽部の部員ふが怖がって練習が進まないため、吹奏楽部の部長が「壁男」なぞいないことを証明するために泊まり込む、という行動に、「秋野」と「葉山くん」が巻き添えになったという流れです。

気味が悪いとはいえ、幽霊の存在は信じていなかった「葉山」だったのですが、二階の窓に明かりが灯り、カーテン越しにフルートを女性の姿を見たのですが、部屋に中に入ってみると誰もいない、という怪異に遭遇します。

この怪異を文芸部の三年・伊神先輩に相談すると、彼は話を聞くなり「謎は解けた」といって、再び夜に芸術棟に来るよう指示します。葉山くんが訪れると、伊神さんと彼の手伝いをする演劇部の「ミノ」こと三野くんによって、人影が影絵を使ったトリックであることを明らかにするのですが、今度は、アシスタントをしていた「三野」が「壁男」がでた、と怯え始めます。
彼が見たものをつきとめるため、その翌日、三度、夜の芸術棟で見張っていると、今度は、コツコツと靴音をたてて歩く音やこの高校の制服らしいものを着て棟から上を赤く染めた首のない人影を目撃して・・と連続して怪異がおきていきます。

市立高校の芸術棟でおきる「壁男」騒ぎを、中学校時代、校長を誘拐したり、定期テストで満点をとったり、と成績優秀と奇行が共存する「伊神先輩」の推理は・・・、という展開です。

少しネタバレすると、空き教室や、器具置場など隠れるところがたくさんあって、夜は誰もいなくなる「学校」というところは、我が家にいられなくなった人にとって、仮の宿泊所としては絶好の場所、というところなのですが、最後のところで一件落着と思わせて、そこで怪談話をしかけてくるのが作者の人の悪さでしょうか。
(そういえば、青崎有吾さんの「体育館の殺人」・「図書館の殺人」で登場するアニメオタクの名探偵・裏染天馬も学校内に住んでましたね)

レビュアーから一言

語り手は、たった一人の美術部員で、サブキャストが演劇部の部長と裏方、探偵役は文芸部の三年生というキャスティングや、クラブ活動をする部室棟で起きる事件という感じで、コメディータッチの学園ミステリーです。イジメといった学校の社会的な問題や青春時代のもやもやとした悪意といったものからは、遠く離れたところにある「明るい」ミステリーに仕上がっているので、世間づきあいにちょっと疲れたオジサン・オバサンも、若かった頃を思い出して元気をとりもどせると思います。

ちなみに、最後のエピローグのところで仕掛けられている、壁の中に首無しの学生服姿の男子生徒が塗りこめられているという怪事件の謎は今巻では解決しません。これは第6弾まで待たないといけないので、「葉山くんと柳瀬さん」ファンは、そこまでシリーズを読んでいきましょうね。

Bitly

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