憧れの女性の後を追って、僕は名探偵になるー似鳥鶏「名探偵誕生」

「名探偵」というのは、ある日突然に私達の前に忽然と姿を表すのか、幼い頃から、推理を働かす環境で過ごしていて、ゆっくりと才能を育んで少しずつ夜に出てくるものなのか議論はあるところなのですが、人目を引くのは前者であることは間違いないところで、ミステリーの「名探偵」の多くがそんな華々しい登場をすることが多いものです。
そんな派手な名探偵とはうってかわって、近所に住んでいる「名探偵」の女性の導かれながら、成長していく奥手の「名探偵」の誕生物語を描いたのが本書『似鳥鶏「名探偵誕生」(実業之日本社)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 となり町は別の国
第二話 恋するドトール
第三話 海王星を割る
第四話 愛しているといえるのか
第五話 初恋の終わる日

となっていて、まずは今巻の主人公となる「星川瑞人」くんの小学校時代から始まります。

「第一話 となり町は別の国」の読みどころ

主人公は、小学校のクラスメートたちと、少し離れたところにある入居者が少なくなった「公営団地」に冒険へ出かけるところから始まります。昔は小学校の児童の行動範囲というには結構限らていたもので、自分の小学校の校区以外は「未踏の地」であることが多かったのですが、今回も、その未踏の地の団地に出るという「シンカイ」とういう妖怪探しに出かけるという、子供らしい「冒険譚」です。
その冒険で団地の中に入り込み、星川くんたちは、鬣のように白い髪を広がらせ、歩いている「シンカイ」を見つけるのですが、団地の近くの「公園」の中で忽然と姿を消してしまいます。さて、この「シンカイ」の正体と、姿を消したトリックは・・、ということで、星川くんの家の隣に住む女子高校生(千歳お姉ちゃん)が、星川くんから話をきいて謎解きに乗り出します、とい展開です。
最初は「安楽椅子探偵」っぽく「シンカイ」の謎を解き明かすのですが、星川くんたちを連れての現場検証の過程で、その消失事件に隠されたもう一つの事件を引っ張り出してきます。

「第二話 恋するドトール」の読みどころ

第二話の「恋するドトール」では、星川くんは中学生になっていて、「青春の頃」にふさわしく、他校の女子生徒からのラブレターが下足箱に入っていて、無い上がってしまうところから開幕です。この手紙の誘いにのって、駅周辺のある、少しサ寂れた「ドトール」で、ラブレターをくれた女子生徒を待つのですが、待ちぼうけをくらわされれます。2〜3時間ほど待ったところで、さすがに帰ろうとするのですが、その時に、隣の席の椅子の底に貼ってあったらしいスマホを発見します。
隣に座っていた男性を探して、スマホを渡そうとするのですが、突然、見知らぬ若い女性が、その携帯は自分のものだと主張し、携帯を取り上げようとするのですが・・という展開です、
そのスマホの持ち主と、それが椅子の裏に貼り付けてあった理由と、星川くんをドトールに呼び出した謎を、千歳おねえちゃんが「さっくり」と解き明かしていきます。
スマホにインストールしたアプリが、椅子の底に貼った状態でうまく動くのかな、という疑問をはらみつつの謎解きです。

「第三話 海王星を割る」の読みどころ

第三話では、星川くんは高校生に進学していて、「千歳おねえちゃん」は地元の国立大学に進学して物理を専攻している「リケジョ」になってます。
今回の事件は、星川くんの友人の彼女がいる他校の文化祭に遊びにいって遭遇する事件です。その友人の彼女も「リケジョ」ぽくて、天文学部に所属しているのですが、その部が出展していた太陽系の模型のうちの「海王星」が左右それぞれが三分の一ぐらいづつ破壊された状態で発見されます。しかし、それが壊されたと推察される時間には、その教室の鍵が施錠されていて、誰も入れない状態になっていたのですが、という密室事件の謎を解く話ですね。ここでも探偵役は、星川くんから電話で頼まれて呼び出された「千歳お姉ちゃん」です。この話で幼いころから「千歳お姉ちゃん」に憧れていた星川くんは、お姉ちゃんに好きな人がいることをしって、淡い想いが弾ける失恋を味わうことになりますね。

「第四話 愛しているといえるのか」「第五話 初恋の終わる日」の読みどころ

第四話の「愛しているといえるのか」と第五話の「初恋の終わる日」は、星川くんが「千歳お姉ちゃん」の影響を受けて、彼女と同じ大学の工学部(千歳お姉ちゃんは同じ大学の大学院に進学しているとうです)に通っているのですが、千歳お姉ちゃんたちと一緒に、大学の先輩で家がお金持ちな「森口」さんという男性の家が所有するログキャビンにキャンプをした時に起きた事件です。
千歳お姉ちゃんとその恋人の米田さん、同級生の一場さん、ログキャビンの持ち主の森口さん、そして僕(星川くん)というメンバーでキャンプをしたのですが、其の夜、歯ぎしりがひどいので、仲間たちとは離れて泊まっていた森口さんのキャビンが火事に見舞われます。森口さんはもともと深酒するほうで、その日も相当よっていたせいか逃げ遅れて焼死してしまいます。
不審火ということで警察も捜査するのですが、火事がおきたとき、キャビンの窓も出入り口も施錠された密室状態にあったため、タバコの火の不始末による失火として処理されそうになるのですが、現場の状況に不審をもった「千歳お姉ちゃん」の推理はこれが他殺事件で、その犯人はなんと彼女の恋人の「米田」さんであることを突き止めるのですが・・・、という展開です。
第四話と第五話が連続しているのは、この自分の恋人が放火した殺人犯だった、という千歳お姉ちゃんの「推理」を星川くんがひっくり返して、真犯人を突き止めるという筋立てで、今まで、千歳お姉ちゃんの後ろにくっついて推理を拝聴していた
「星川くん」が一挙に名探偵として成長していくさまが、感動的です。

レビュアーから一言

失恋を味わいながら、ずっと千歳お姉ちゃんと後をおっかけてきた星川くんが、最終話で、千歳お姉ちゃんが失いかけた恋を、彼女への想いを胸の奥底に秘めながら、再び結び直してあげるとことは、「男の子だねー」と褒めてあげたくなる行動です。ミステリーとしても、青春物語としても楽しめる仕上がりになっています。

Bitly

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