コミュ障の天才美人画家が有名絵画で謎を解くー似鳥鶏「彼女の色に届くまで」

女性の名探偵は、ミス・マープルをはじめとして数々登場しているのですが、たいていは人当たりが良くて相手に警戒心を思わず解かせてしまい人物か、心理的なテクニックで相手の隠していることをたちまち暴いてしまう、ドS傾向の美女、あるいは天才的な頭脳の持ち主ながら、相手を油断させるドジっ子風味の癒やし系といったタイプが多いのですが、天才的な画家としての才能を有しながら、KYで、コミュ障の黒髪の美女が探偵役を務めるのが、本書『似鳥鶏「彼女の色に届くまで」(角川文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 雨の日、光の帝国で
第二章 極彩色を越えて
第三章 持たざる密室
第四章 嘘の真実と真実の嘘
終章  いつか彼女を描くまで

となっていて、まずは、本巻の語り部役を務める、画廊の息子で、幼い頃から絵に親しんでいて、小学校・中学校のときは、それなりに才能を評価されていたと自負する「緑川礼」くんが、学校の下駄箱のところで眠り込んでいる黒髪の美女「千坂桜」に出会うところからスタートします。その時は、雨が大降りになりそうなのに、傘をもっていない彼女に、コンビニで買ったビニール傘をプレゼントするだけでなのですが、1年後、彼が絵画破損の疑いをかけられたときに、その恩が返ってくることになります。

校長秘蔵の絵画破損の謎を解く

一つ目の事件「雨の日、光の帝国で」は、「緑川」くんが2年生になったとき、友人の筋肉ムキムキのマッチョ・風戸翔馬と美術室でダベっているときに、学校の理事長と体育教師の俵から九に呼び出されます。実は、理事長は美術愛好家で、所蔵する絵画を学校内のあちこちに「生徒の教育」という名目で展示しているのですが、そのうちの美術室に飾られている一枚に油絵具でいたずら書きされ、さらにペインティングナイフで引っかかれているのが発見されます。
「緑川礼」くんはたった一人の美術部員で、しかも、その性格から風戸以外の友人がいないという状況で、理事長たちが勝手に疑って濡れ衣を着せてきた、という設定ですね。この濡れ衣の着せ方がメチャクチャで、生徒の話を聞こうとしない、理事長の腰巾着の「俵」という教師が典型的な横暴教師なので、ここは読者に憤慨をあおるところですね。
ここで、突然登場するのが、本巻のコミュ障の天才画家・千坂桜で、彼女は1年前の傘のお礼に、今回の謎解きを勝手にはじめて緑川くんの窮地を救おうとするわけですね。
彼女が真犯人として提示してきたのが学校の緊急連絡用サイトに書き込んであった「シュールマン」と名乗る人物のブログリンクで、そこには生徒らしい人物から、今回の事件を含む愉快犯的な学内の悪戯の数々なのですが、そこから実は、生徒の仕業ではなく、理事長と親しい部外者の犯行であることを暴いていきます。

床のペンキ越しの絵画破損の謎を解く

二番目の事件「極彩色を越えて」は、緑川くんが家業の「緑画廊」の手伝いで、展示会のために所蔵の絵画を貸し出している美術館でおきる事件です。家業の画廊は、緑川くんの父親が経営しているのですが、その父親がかなりの「遊び人」で、仕入れと誦して国内外を遊び回っている、という人物のようで、そのため、彼がかなりの頻度で手伝いをしているようです。
今回は「真贋展」というテーマで、有名作家の真作と贋作を一度に展示して、観客の鑑定力を試そうという展覧会なのですが、緑画廊では、大園菊子という年配の女流作家の絵画の真作を貸し出しているというわけですね。
そして、事件のほうは緑画廊が貸し出している絵画の展示室でおきます。その展示室では、大園画伯が創作活動をしていたのですが、事件の前に、床一面に使っていた水色のペンキが撒き散らされるというハプニングがおきます。それを見つけた緑川くんが、美術館の関係者を呼びに行っている隙に、撒き散らされたペンキの向こう側に展示されていた、大園画伯の絵画がずたずたにされていた、というものですね。ペンキには足跡もついていないので、犯人と犯行のトリックの謎解きを、緑川くんを訪ねてやってきていた「千坂桜」が解き明かしていきます。
謎ときのヒントは「真贋展」で、真作より出来のいい「贋作」の存在ってどうなの、というところです。

密室内の絵画焼失の謎を解く

三番目の事件「持たざる密室」は、芸大に進学した、緑川くんと千坂桜が出くわす事件です。第二話で画伯に才能を評価された千坂は、芸大でもその才能を多角評価されているようですが、作品の発表を頑なに嫌がっています。さらに、生活能力は皆無に近いので、緑川くんが料理をつくってやったり、と保護者がわりをしています。
事件のほうは、二人が属する美術学部の学部棟でボヤ騒ぎがおきて、部屋にあった絵画とかが焼けてしまいます。絵画自体は、昔の学生が描いたもので価値はほとんどないのですが、その火事が起きた時に、高校の同級生・風戸が部屋の鍵を壊して侵入していたので犯人として疑われている、という状況です。
実は、その部屋は火事が起きる前の週に侵入して収蔵品を物色している人間がいたので、鍵を新調して施錠してあり、風戸がドアを蹴破るまでは密室状態だったので、密室での放火事件の謎ときとなるわけですね。
まあ、この事件のおかげで、表に出るのを嫌がっていた千坂が匿名(その匿名も焼き鳥屋で思いついた「若鳥美麗」というふざけたものなのですが)を条件に有名なコンクールへ出品することを承知するにで、これは怪我の功名というものでしょうか。

画廊内の絵画消失の謎を解く

四番目の「嘘の真実と真実の嘘」は、大学を卒業した緑川くんが実質的に引き継ぐことになった「緑画廊」で起きた事件です。彼と行動をともにしていた風戸くんは、将来のプロテイン料理店の開業経費を貯めるためにスポーツクラブのインストラクターになり、千坂は学生時代に出品した難関のコンクールでいきなり金賞をとってプロデビューしたのですが、あいかわらずコミュ障はそのままで、作品はすべて緑画廊に預け、マスコミには全く顔を出さないという状況です。
この緑画廊で、二階へ続く階段に飾っていた絵画が紛失するという事件がおきます。紛失した日には、店に勤務する緑川くん、木ノ下さん、友人の風戸と千坂、常連客だけで、不審な侵入者はいません。また、消えた絵画はかなり大きなものだったのですが、それを抱えて外へでた人物も監視カメラの画像で間違いありません。さらに、数日後、犯人を名乗る人物から、消えた絵画が画廊に送られてきて・・という展開です。
ネタバレのヒントは、真作の油絵を丸めて持ち出すなんてのは絵の知識が少しでもある人はやらないよね、というところです。

天才美女作家の秘密の過去の謎を解く

最後の「いつか彼女を描くまで」では四番目の事件ででてきた贋作作品にある「印」がついていたことを発見した緑川くんが、過去に彼と桜川が関わった事件ででてきた絵画との関連性を調べ始めます。
そこで見つかったのは、千坂桜の過去。その過去を後悔して、彼女は自分が作品を発表しているペンネーム「若鳥美麗」を使って、緑川くんがデビューすることを提案してくるのですが・・・、という展開です。高校時代から、自分の才能に比べて桁外れの千坂桜の才能を見出し、育て上げてきた緑川くんなのですが、今話で最終的にプロデューサーとして彼女をサポートすることを決意します。物語はここで終わっているのですが、続編があれば、千坂桜と緑川礼の画家と画廊オーナーの絵画ミステリーが楽しめるところですね。

レビュアーから一言

本巻で、千坂礼が推理を働かせるキーとなるのは、そこに置いてある画集の絵画となっていて、『ルネ・マグリット「光の帝国」』、『ジャクソン・ボロック「カット・アウト」』、『エドゥアール・ヴュイヤール「室内にて」』、『ガブリエル・デストレとその妹』で謎を解いています。ぞれぞれがどんな絵なのかは、本書か画集で確認してくださいね。

Bitly

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