「君のマンガ、映画にするよ」で始まる恋物語ー友井羊「映画化決定」

高校生たちが活躍する「芸術もの」というと、演劇か音楽活動といったところがメジャーなのですが、本作のテーマは、映画の自主製作。高校の演劇部でメガホンをとる女子高生監督と、映画の原作漫画を書いた男子生徒の二人を中心としたミステリ―風味の青春恋愛ものが本書『友井羊「映画化決定」(朝日新聞出版)』です。

構成と注目ポイント

本巻の構成

構成は

第一章 未知との遭遇
第二章 アマデウス
第三章 ザ・マジックアワー
第四章 Love Letter
第五章 最後の人
エピローグ

となっていて、まず、プロローグとも言えない「断章」が物語の最初に挿入されています。主人公の「ぼく」が、「ハル」という人物が葬られている霊園に墓参りにいくシーンなのですが、ここのイメージに拘泥していると、作者の仕掛ける罠にはまってしまうので、ここはほどほどに記憶に留める程度にしておきましょう。

キミの漫画、映画化決定

物語のほうは、高校2年生の「久瀬直人」が、同級生で映画部の所属している「木崎ハル」から、彼が小学校の時に描いたマンガ「春に君を想う」のネームを「きみのマンガ、映画化決定ね!」と言い渡されるところからスタートします。
彼女は、1年生の時にメガホンをとった自主製作映画が、学生を対象としたコンクールでグランプリを獲得した、という逸話の持ち主で、さらに、その映画が社会人を対象とした映画賞で入選も果たし、一躍、地元の有名人となった存在です。

直人が描いたマンガは、小学校時代に、勤務先のゴタゴタと夫婦の不和が原因で家を飛び出した父親といった家庭内の出来事を踏み台にしながら捜索した純愛もののマンガで、それ」後、ずっとマンガを描き続けていても、それを超えるものがつくれない、と本人が自覚している作品です。
過去のトラウマと、以後の不振のために、映像化に乗り切れない直人なのですが、映画にかける「ハル」の想いと熱情の凄さに説得され、映像化に協力していくこととなり、原作者兼スクリプターとしてかかわるうちに、映画監督としての「ハル」と女性としての「ハル」にどんどん惹かれていくようになり・・といった感じで、青春時代の恋愛ものの展開をしていきます。

とはいっても、ベタベタアマアマな感じではなく、高校生ながら若手の才能ある映画監督として成長している「ハル」は直人の原作を容赦なく「映画」のシナリオとして改変していきますし、直人の幼馴染の「杏奈」が突然、この自主製作映画のヒロインのオーディションに応募して合格し、女優としての才能を開花し始めたり、映画部の中も、ハルの才能を素直に受け入れられないカメラマン担当の男子生徒とハルの対立や、「ハル」を崇拝する女子生徒が直人に抗ってきたり、とお金のない学生の映画の自主製作の苦労や楽しさを含めた「青春物語」の味つけがふんだんにされています。そこは抵抗なく、若い映画人たちの行動を応援したくなるような仕立てになっているかと思います。

映画完成へ向け、ハルと直人が急接近

この後、映画の完成に向かって、ハルを中心に映画部の部員たちもまとまりを見せ、最初は異分子として警戒されていた「直人」も映画の制作仲間としての認知を受けていきます。

ここで、スクリプターとして「ハル」に必死についていく「直人」なのですが、「ハル」の設定変更にむかついて文句をいったりと、まだまだ「原作者」の権力性に気づかないあたりが「素人」っぽいところでしょうか。

これは、原作をすみずみまで理解するために、家から逃げ出した直人の父親を、直人とハルの二人で訪問し、失踪当時の父親の「心の悩み」とそれを支えていた女性の存在を知って、二人の仲が急接近することとなります。

これは、直人の杏奈の関係性にも影響を及ぼしていて、直人への恋を告白したのですが、受け入れられなかった時、その心の痛手を胸に秘めて、一世一代の名演技をクライマックスシーンの撮影で見せるといった、直人の幼馴染の杏奈の俳優としての急成長ぶりを生み出すことになりますね。(この映画の演技がきっかけで、杏奈は女優の道が開けるので、失恋が肥やしになった、といえるのかもしれません。)

そして、病気がちだった「ハル」の病状が悪化して、彼女は入院を余儀なくされます。しかし、映画の完成を決意する彼女は、直人と共謀して病院を抜け出し、最後の撮影に望むのですが、ここで作者が大爆弾を放り投げてきます。「ハル」の病状は、映画の評価は・・というこれからの展開は、原書のほうで。ハルが、当初、ハッピーエンドだったシナリオの結末を「悲劇的な結末」に変更した意味も明らかになってきます。

ただ、ここで安心していると、作者が最後の最後でまた別の仕掛けを施していますので、油断せずに最後まで読んでくださいね。エンディングが、冒頭のシーンにつながって、しんみりしてくること請け合いです。

レビュアーからひと言

本巻は「直人」と「ハル」の青春恋愛もの、という色合いが強いのですが、もうひとつ、彼らの周辺の人物がいきいきと描かれているのも印象的です。
自主映画作りというのは、時折、街角で見かけることはあっても、中の人として体験したことのある人は多くないのですが、シナリオ制作から、スクリプター、カメラマン、音響などなど、映画作りの魅せられて時間をつぎ込んでいる若者たちの青春物語としても良い仕上がりの物語になっています。

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