ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人で、年齢は25歳前後。一旦眠ると経験したことを全部忘れて17歳当時の記憶まで戻ってしまうことから、１日以内の「最速」で謎解きをする「忘却探偵」掟上今日子さんが、今回はひさびさに隠館厄介くんを相棒にして、連続爆破事件の解決に挑戦するのが「忘却探偵」シリーズの第12弾『西尾維新「掟上今日子の乗車券」（講談社）』です。
「掟上今日子の設計図」のあらすじと注目ポイント
事件のほうは、まず都内の「何の変哲もない」立体駐車場でおきます。そこは4階建ての屋上まで車が駐車できるよくあるモータプールなのですが、そこが内部から爆発の炎に包まれ、ほぼ満杯に駐車していた車がすべて溶解するか黒焦げになってしまう映像が動画共有サイトに投稿されます。
その爆破犯と名乗る、動画の投稿者「學藝員9010」は
今日、町村市現代美術館を爆破する。タイムリミットは閉館時間の午後８時
と次の爆破予告をし、
頼む、警察でも探偵でもいい。この動画を見ているあなたでもいい、だれか私を止めてくれ。
と犯行宣言を残します。この爆破犯の容疑者として、冤罪の帝王・隠館厄介くんが検挙されたことから、彼の無実を晴らすのと、爆弾の位置を探して犯行を阻止するため、我らが忘却探偵・掟上今日子さんが登場してくるわけですね。
今回協同作業をする警察側は、厄介くんを検挙した優良警部と新進気鋭の原木巡査。二人に加えて、過去に高校でおきた連続爆弾事件で被害者となった女子高生をかばって失明した扉井あざな警部補。彼女は、失明後、盲導犬と火薬探査の専門犬であるゴールデンリトリバーのエクステとドーベルマンのマニキュアを相棒にして爆弾検挙のエースとなった存在です。
そして、今巻の主舞台となるのが爆破の対象となる「町村市現代美術館」。ここでは、被害者を最小限にするために入場者だけでなく館員の退避を優先する警察側と、美術品の万全な退避を求める館長との間で大バトルが演じられてます。ここで巻き添えをくったのが爆弾担当の扉井警部補で、現在展示中の動物剥製を目玉にした特別展で、彼女の愛犬が剥製に噛み付いてはいけないと館長から入場を拒絶され、美術館の前で待機中です。
今回、彼女が美術館の入り口で見張っていることから、擬似的な「密室」がつくられているわけですね。そして、彼女が館内に入れるように、今日子さんたちが策を講じるわけですが、そこで、館長室に爆弾が仕掛けられているのが発見され・・という筋立てです。
この爆弾は、犯人によって仕掛けられたフェイクであることがわかるのですが、このことから犯人の「學藝員9010」は警察関係者にいるのでは、という疑いが濃厚になります。
ここで、警察関係者の中でも犯人の可能性の少ない優良警部と原木巡査、扉井警部補、そして厄介くんと今日子さんが別働隊として、爆弾捜査と犯人捜査にあたっていきます。
そして、犯人捜査を中心に行っていた今日子さんが、爆弾の隠し場所を、爆弾の隠し場所を中心に調べていた扉井警部補が犯人の正体に気づきます。今日子さん、厄介くん、扉井警部補の３人は、爆弾の隠し場所と思われる収蔵庫に向かうのですが、ここで扉井警部補の意外な正体が明らかになり・・・、という展開です。ここで、犯人の目的が美術館の爆破でなく、今日子さん殺人にあったといった雰囲気にされるのですが、これはフェイクですのでひっかからないように。
この後、真犯人の仕掛けた罠から今日子さんと厄介くんが必死の思いで脱出するのですが、思いもかけない犯人の美術館爆破のトリックと、二重三重に覆い隠されていた犯人が美術館爆破に至った動機は、ちょっと驚きの仕掛けでありました。
さらに、爆破を阻止するために、いつもは冷静に周囲の様子をうかがいながら、周りを高みから操っている風情を見せる今日子さんの、いつになく真剣な切羽詰まった様子が新鮮です。
最終盤に向けては、予告時刻めがけて美術館に迫ってくる爆弾の爆発を阻止しようとする今日子さんの活躍が息詰まる感じで展開し、感動あふれる最終の爆破阻止シーンにつながっていくので、ここは原書のほうで楽しんでくださいね。ちょっとだけ、ネタバレしておくと、阻止の決め手は「女子高生の思いやり」であるのですが、その思いやりの発露に今日子さんのしたたかな作戦があることは言っておきます。
レビュアーの一言 ー 今日子の忘却の原因はまだ不明・・
今巻は、警察官として高校の爆弾殺人事件の捜査で失明した扉井警部補の回想や経歴がストーリの中心に置かれているので、ちょっと暗めの展開になってます。その中で彼女が失明したのは17歳の女子高校生を同級生の爆弾魔から守ったときに失明事故にあったというところから、今日子さんが忘却探偵となった理由がひょっとすると、と思ったのですがこれは大外れのようです。
コメント