忘却探偵が芸術マンションの額縁作家密室傷害事件の謎を解くー西尾維新「掟上今日子の推薦文」

眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまうので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない、年齢は25歳前後、小柄な美人ながら、ショートカットの髪は総白髪、という風貌の「最速」探偵・掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いた「忘却探偵」シリーズの第二弾が『西尾維新「掟上今日子の推薦文」』です

構成と注目ポイント

構成は

第一章 鑑定する今日子さん
第二章 推定する今日子さん
第三章 推薦する今日子さん

となっていて、まず、この巻の主人公で大手警備会社に勤める25歳前後の青年「親切守(おやぎりまもる)」が警備の仕事で派遣されている現代美術館の警備中の絵画を長時間鑑賞している、若くて、毎日服装が変わるお洒落な、総白髪可愛らしい女性に声をかけるところから始まります。

このシリーズの読者であればおわかりの、忘却探偵・掟上今日子さんですね。絵画に全く興味がなく、今日子さんが眺める現代画の価値がわからない彼は今日子さんに、その絵の魅力を尋ねるのですが、彼女は「この作品は2億円の価値がある」と告げます。

ところがその数日後、いつもとおなじように美術館にやってきた彼女は、その「二億円」の絵をスルーして通り過ぎてしまいます。今まで立ち止まって長時間を眺めていた様子からの急変で、不審に思った「親切」くんは今日子さんに再質問すると、「この絵は二百万ぐらいの価値しかない」と以前の「二億円」発言とは大きく下落した値段を告げてきます。絵には以前と変化があるわけでもなく、何故?、というのがまず最初の謎解きですね。

この突然の価格下落の意味がわからないままに美術館に勤める親切くんなのですが、ある日、袴姿の老人が「二億円→二百万円」の絵画の前に立つなり、怒りを込めて、その絵画を滅多打ちし、額もろともバラバラにしてしまう、という暴挙にでます。この責任をとって親切君は警備会社を馘になるのですが、どういうわけか、この「絵画破壊」の事件は全く報道されることなく闇にほうむられた状態に。親切くんは、自分が馘になったこの事件と絵画の価格暴落の謎解きを忘却探偵・今日子さんへ依頼するのですが・・と言う展開です。
章の中ほどででてくる、鉛筆だけで絵画をそっくりに模写する天才少年「剥井陸」くんが、読者の推理を攪乱する風情があるのですが、これは第二章の本チャンの事件の前振りですね。

続く第二章からは、この「絵画破壊事件」をおこした和久井老人が、自分のせいで警備会社を馘になった「親切」くんを哀れに思って、ある「警備」の仕事を依頼してきます。
その仕事というのが、この和久井翁は、有名な「額縁作家」だったのですが、彼の最後の作品を創作している「地下室」を警備してくれ、というもの。ところが、この仕事に就いてすぐ、和久井翁が作業をしている地下室で腹部にペインティングナイフを突き刺されて倒れているのが発見されて・・・という筋立てです。

この「地下室」というのが、和久井翁がオーナーのマンションの地下にあって、外部からは出入りできない密室状態。このマンションには、和久井翁が自分の最後の作品に入れる絵画を描かせている若手の画家を数十人、格安料金で住まわせているのですが、おそらく、その中に犯人がいるはずで、ということで忘却探偵の推理が展開されていくわけですね。

レビュアーから一言

少しネタバレしておくと、今回のメイン事件の鍵は、和久井翁が発注していた最後の作品用の部材が、絵画一点や二点をいれる額縁よりもっと大量であったことや、ここに住んでいる画家たちがそれぞれ「色」を割り振られていた、というところです。

さらに、真犯人に自首させるため、今日子さんが和久井翁の所有するマンション「アトリエ荘」の17階と18階の間で何者かに突き落とされたと見せかけるフェイクを使うといった体を張った仕掛けが注目ですかね。

掟上今日子の推薦文(文庫版) 忘却探偵(文庫版) (講談社文庫)
二億円の絵が一夜にして二百万円に急落。鑑定人は、忘却探偵・掟上今日子。しか&...

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