忘却探偵が颯爽と事件の謎を解明するー西尾維新「掟上今日子の備忘録」

眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまうので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない、年齢は25歳前後、小柄な美人ながら、ショートカットの髪は総白髪、という風貌の「最速」探偵・掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いた「忘却探偵」シリーズの第一作が本書『西尾維新「掟上今日子の備忘録」(講談社文庫)』です。

構成と注目ポイント

「掟上今日子の備忘録」の構成は

第一話 初めまして、今日子さん
第二話 紹介します、今日子さん
第三話 お暇ですか、今日子さん
第四話 失礼します、今日子さん
第五話 さようなら、今日子さん

となっていて、この巻が忘却探偵のデビュー作。今巻の語り手は、難事件や凶悪犯罪に必ず巻き込まれ、さらに必ず「犯人」と疑われるという、厄介な運の持ち主「隠館厄介」という男性。彼はいたるところで容疑者として疑われるので、その濡れ衣を晴らすために多くの「名探偵」と知り合いになっているのですが、そのうちの一人が掟上今日子さん、という設定です。

第一話の「初めまして、今日子さん」では、厄介くんがある研究機関の研究室の研究データのバックアップを収めたSDカード紛失事件の犯人と疑われてしまいます。なくなったSDカードには、ゴーグル無しでも立体映像が見えるようになる技術の研究データで、一般の10分の1の経費で可能になるものなので、研究室で一番新米で、一番怪しい(という印象)の厄介が盗んでライバルメーカーに売ろうとしたのでは、と思われたわけですね。
そして、今日子さんが来た段階で、部屋を大捜索したのですがそれらしきものはなし。さらに研究室内にあるSDカードはすべて中身を調べたのですが、研究データは見当たらず、という状況です。依頼を受けてやってきた今日子さんは関係者の聞き取りと、部屋の再調査を始め、「木を隠すなら森の中ですね」と謎をとくのですが、途中、研究室で飲んだ飲み物に眠り薬が仕込まれていて眠り込んでしまいます。さて、眠り込んで、事件のことを全て忘れてしまった彼女が見せる謎解きは・・という展開です。

第二話の「紹介します、今日子さん」は、厄介の以前のアルバイト先の出版社「作創社」の編集者・紺藤さんからの依頼です。彼は、売れっ子の女性漫画家「里井有次」を担当しているのですが、彼女が冷蔵庫にしまっていた百万円が盗まれる、という盗難事件がおきます。その上、犯人から、この百万円を返してほしければ1億円用意しろ、という脅迫状が届きます。普通ならこのおかしな脅迫に従う人はいないはずなのですが、この漫画家・里井は、犯人の要求に従って1億円を払おうとします。さて、漫画家の真意は、そして犯人は、と言う謎解きを、今日子さんが依頼をうけて推理する話ですね。「盗まれた百万円」が意味するものが謎解きのヒントですが、お札にすべてプリントされていて、一枚一枚違うものがキーワードです。

第三話の「お暇ですか、今日子さん」は、第二話と同じく作創社編集者の紺藤さんからの依頼。彼は第二話で謎を解いてくれた今日子さんへのお礼もかねて、あるミステリー作家の別荘での原稿捜しのゲームに招待します。そのミステリー作家は、自作原稿を別荘のどこかに隠し、いくつかのヒントを出して、編集者に捜させ、見つけた出版社にその作品の発表を任せる、という面倒くさい趣味をもっています。
今回のヒントは「1.作品の原稿枚数は、およそ120分ぐらいあれば読めるぐらい」「2.デリケートな場所に隠してあるので細心の注意を払って探すこと」「3.あるものではなく、ないものをさがせ」「4.  」というもので4番目は「鉛筆が必要になるかもしれない」と」書かれていたようですが修正テープで消されている、というもの。この謎解きの原稿捜しに、見つけたら一番最初に読む権利を与えるというご褒美につられて、今日子さんがチャレンジするのですが、この作家が急死してしまい、まさにこの原稿が遺稿となって価値があがり・・・という筋立てです。
今日子さんは、この原稿を別荘のAV室のラックの中で見つけるのですが・・・という展開なのですが、今となってはこの謎解きは、デジタル草創期の人でないとわからないような気がします。

第四話の「失礼します、今日子さん」と第五話の「さようなら、今日子さん」では、第三話で急死したミステリー作家の急死が病死ではなく、睡眠導入剤の飲みすぎによる自殺か他殺という疑いが出てきます。その謎解きのヒントは、長編82冊、短編集17冊、併せて97冊の著作の中にあるという今日子さんは、その全ての著作を完読することに挑戦します。しかし、到底一日で読める量ではなく、厄介に眠りそうになったら彼女を起こしてくれるようアルバイトを依頼するのですが・・という筋立てです。

彼女を起こし続ける厄介なのですが、だんだんと寝不足で今日子さんの機嫌は悪くなる一方。。そして冷たいシャワーを浴びるといって浴室へいった彼女はそこで眠り込んでしまい、シャワーの冷たい水を浴び続けたため、低体温症になり生命の危険が・・といった展開です。彼女を蘇生させるための厄介の奮闘と、彼が今日子さんを運び込んだ寝室の中に、今日子さんを「忘却探偵」にしている秘密の一端が隠されています。

謎解きのほうは、意外にも著作そのものではなくて、著作リストのほうに隠されているので、真相は原書のほうでご確認を。

掟上今日子の備忘録(文庫版) 忘却探偵(文庫版) (講談社文庫)
眠ると記憶を失う名探偵・掟上今日子。彼女のもとに最先端の映像研究所で起きた&...

レビュアーから一言

「忘却探偵」」シリーズは、掟上今日子役を「新垣結衣」さんが演じたTVドラマが話題になったのですが、現時点(2020.05月)では、それを配信しているVODサービスはないようなので、動画を観たい方はDVD一択になるようです。

ちなみにコミカライズ版もでていますので、「活字はちょっと」という方はそちらをどうぞ。

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