なにかと不穏なオリンピックイヤーに読んでおきたいオススメ・ミステリー 10選

開催か延期・中止か、さらには無観客か有観客か、日本の世論を真っ二つにしながら、いまだ迷走を続けている「東京オリンピック2020」なのですが、ミステリ―の世界でもオリンピック・ネタは、クライム系だけでなく多様な物語が展開されています。

今回は、オリンピックに関連したミステリーのオススメ本を10作ピックアップしてみました。

①月村了衛「悪の五輪」講談社

 1964年に開かれた「東京オリンピック」を舞台にした物語です。

 オリンピック組織委員会には現在も政治家、財界関係者など著名人が名を連ねているのですが、その下では、各種スポンサー、建設業者、右翼、ヤクザ、果ては警察までもがうごめいて、巨大な利権構造をつくっていた、という「闇の日本」的な設定にもと、公式記録映画の制作をめぐって、博打をしのぎにしている白壁一家が、自らの息のかかった映画監督を、金と女をつかって制作監督に押し込んで、興行界に乗り込んでいくのですが・・・といった展開です。

 「東京オリンピック」を境に、日本は劇的に変貌していくのですが、その「熱」を伝えるかのようなクライム・ノベルです。

②奥田英朗「オリンピックの身代金」(講談社)

 これも1964年の東京オリンピックの時代の物語です。東京オリンピック開催のため、日本では地下鉄、新幹線、モノレールや高速鉄道など今の日本を支え続けているインフラも整備され、東京一極集中が加速されはじめた時代でもあるのですが、当時、東大生であった島崎国男は、兄の死を契機にこれらをつくっている人々の過酷な労働現場を知ります。五輪開催で沸き立つ東京を人質に、巨額の身代金を請求する爆破テロをほのめかし、オリンピックの妨害を試みるのですが・・といった展開のサスペンスです。

 思想的なバックボーンというより、成り行きでテロリストになっていく主人公と、国民に極秘のままで捜査が進めていく警察の姿は、別の意味での「怖さ」をはらんでいます。

③奥田英朗「罪の轍」(新潮社)

 前の「オリンピックの身代金」で犯人となる島崎国男の捜査を進める警視庁捜査一課の

刑事・昌夫がオリンピックの前年に担当した誘拐事件。

 オリンピックを翌年に控え盛り上がり始める東京の浅草で男児誘拐事件が勃発します.

犯人の有力な手がかりとして、子供たちから「莫迦」と呼ばれる北国の訛りのある男が浮上するのですが・・といった展開です。

④藤井太洋「東京の子」(KADOKAWA)

 2回目の東京オリンピックの終了後の2023年の東京が舞台。この物語の「東京」は外国人労働者の流入とオリンピック景気で人口増と好景気で賑わっています。この作品の発表当時は、新型コロナ禍や現在のオリンピックをめぐる日本を分断する議論なんてのは想像外でしたからねー。

 物語のほうは、他人の戸籍をかって、新大久保にあるべちなむ料理屋で暮らす23歳の青年・舟津怜が主人公です。

 彼はオリンピック後につくられたマンモス職業能力開発大学校のチェーン料理店のスタッフをしていた「ファム・チ=リン」という女性の捜索を頼まれます。彼女は「東京デュアル」が学生の人身売買をしていると告発をしようと動いていたらしいのですが・・といった展開。アフター・オリンピックの近未来小説ですね。

⑤五十嵐貴久「コヨーテの翼」(双葉社)

 この作品の舞台は、2021年に開催される「東京オリンピック2020」。その開会式に出席する世界各国のVIPを狙って、過激派が数々の要人暗殺に関わったとんされるスナイパーを雇った。そして、オリンピックも近づく中、警視庁にオリンピックの中止を求めるメールが届く。中止しない場合はテロをしかける、という脅しもあって、という展開です。

 超人的な能力を持つスナイパーと、日本の警察官との対決が展開されるサスペンス・ノベルです。

 オリンピックで仕掛けられたテロ事件は、ミュンヘン・オリンピック

⑥逢坂剛「幻の祭典」(文藝春秋)

 政治的プロパガンダに満ちたオリンピックとして史上でもっとも評判の悪い、ナチスのベルリン・オリンピックに対抗して、スペインのバルセロナで当時、スペインの政権をとっていいた人民戦線が22カ国の支持を得ていた「人民オリンピック」をベースに、当時のスペイン内戦と現代のカタルーニャ独立運動を軸に展開されるサスペンスです。

 作者お得意の「スペイン」を舞台にした小説ですね。

⑦西村京太郎「東京オリンピックの幻想 十津皮警部シリーズ」(文春e-book)

 西村京太郎ミステリーの定番の登場人物・十津川警部が東京オリンピックの警備計画を担当することになったのですが、その策定過程で、昭和15年に招致され、戦争のために直前に返上となった幻の「東京オリンピック」を調査することとなります。その「招致の成功」から返上までの「失敗」の過程を研究するうちに、今まで隠されてきたある秘密を気づくのですが・・といった筋立ての歴史ミステリーです。

⑧遠藤武文「狙撃手のオリンピック」(光文社)

 射撃のオリンピック強化指定選手としてモスクワ五輪を目指していた長野県警の警察官とテルアビブ空港乱射事件の被疑者として拘束された経歴をもつ男の二人を主人公にして、長野冬季オリンピック開会式の当日にテロの予告が届いたことをきっかけに、二人の人生が徐々に工作していくサスペンスです。

⑨大崎梢「彼方のゴールド」(文春文庫)

 老舗の大手出版社「千石社」を舞台にした出版・お仕事ミステリーの第4弾。

千石社の営業部に所属していた入社二年目の本作の主人公「目黒明日香」(ニックネームは「めぐちゃん」)が、初めての人事異動で総合スポーツ雑誌「Gold」勤務となるのですが、彼女は、子供の頃にスイミングスクールに数年間通っていたぐらいで、ほとんどスポーツのほうには興味がない、という女性。そんな彼女が野球、バスケット、水泳、陸上とアスリートの努力と裏側を取材していく過程で、様々な日常の謎やトラブルを解決しながら、スポーツ誌の編集者として経験を積み、オリンピックの記事執筆を狙うまでに成長し・・というコージー・ミステリー系お仕事小説です。

⑩森谷明子「涼子点景1964」(双葉社)

 これまた1964年の東京オリンピックの頃、国立競技場に近い新宿区内の小学校に転入し、学区内の中学校にj入学しながら卒業を待たずに転出していった謎めいた少女・小野田涼子をトリックスターにして、漫画雑誌を万引した疑いをかけられた少年が、涼子らしき女子高校生に疑いを晴らしてもらう話を皮切りに、甥の暮らす団地を訪ねた中年女性が、その部屋の前の入居者を探す老人に出会う話やオリンピック景気に乗れないでいる和菓子屋の息子の起きた話など、時代が大きく変わった1964年という時代に暮らしていた人々の日常に起きた謎が解決されていくのですが、その全てに「小野田涼子」が何らかの形で登場し、それに伴い、彼女の謎を少しずつ明らかになっていく、という連作短編ミステリーです。

 森谷明子さんというと、紫式部とその娘を主人公にした「平安朝ミステリー」や、小さな公立図書館を舞台にした「秋葉図書館」シリーズなどがまず浮かぶのですが、それとはまた違う味わいのミステリーです。

ミステリー片手の「オンライン観戦」はいかが

2021年の東京オリンピックはほとんどすべての競技が無観客になったりして、ほとんどの人のオリンピック観戦は、テレビかオンラインでの観戦・応援となりそうです。

いつもと違うオリンピックイヤーを、オリンピック関連のミステリーとともに過ごす、というのもちょっとオツな体験ではないでしょうか。

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