イメージ・コンサルタントのアドバイスで「見えない闇」が浮かび上がる ー 遠藤彩見「イメコン」(創元推理文庫)

東京からちょっと離れたところにある地方都市S市に住む、引きこもりの高校生・武川直央をメインキャストに、彼が、有名なイメージ・コンサルタントで、S市の新任市長のアドバイザーになった一色一磨とともに、S市の市役所周辺などで起きる事件の数々を解決していくことによって、自らも変わっていく、ビルドゥングス・ロマン的なお仕事ミステリーが本書『遠藤彩見「イメコン」(創元推理文庫)』である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 キラースマイル
第二話 色メガネ
第三話 デスボイス
第四話 うぬぼれ鏡

の四話。

第一話の「キラースマイル」は、本作のはじまりの物語。主人公となる武川直央が市役所で、イメージコンサルタント・一色一磨と、彼にアドバイスされる市役所のカフェの副店長・梢水穂とかなり最悪に近い出会いをするところ、市役所の別館で、彼女に向けて紙吹雪の詰まったダンボール箱が階上から落とされ場面にでくわし、犯人使いされ、母親の知り合いのS市市長の五味によってなんとか疑惑を晴らすところから始まる。

もっとも彼に疑いをもった梢水穂も、美人で上から目線で対応する、ということで、カフェの他のスタッフから嫌われている状態なので、まあ、態度がキモいと言われて登校拒否になった「直央」ち似たような境遇ではある。
で、彼女のイメージを変えていくために「一色一磨」が乗り出すわけだが、

美人を見ると、人は交感神経を刺激されるといいます。興奮する人もいれば、緊張する人、」恐怖を感じる人もいる。それが『美人の闇』。梢さんは美人な上、顔のパーツも大きいから、笑いベタの感じ悪さが余計に増幅されてしまうんです。

といったあたりは、「美人の辛さ」を初めて知りましたな。

事件のほうは、この梢さんが「ぼっち」であることを利用されて、贈収賄事件の首謀者にされそうになるのを、一色のアドバイスでイメージを変えることによってからくも逃れる展開である。

第二話の「色メガネ」は、駅前広場近くの古いアパートの入り口に「枯葉」が積まれているという、いやがらせでスタートする。ここのアパートは、駅前に市民センターとかを建設するところに位置しているのだが、アパートの住民があれやこれやを言い立てて、立ち退こうとしないという状況が続いている。

住民たちが、市の担当者の説明ぶりに不信感をもっている状態に、武川と一色のコンビが、市の担当者の坂井のイメージトレーニングに乗り出す。彼のイメージアップは順調に進むのだが、それにもかかわらず立ち退き交渉がうまくいかないのには別の理由があって・・・、という展開。

市が施設をつくる際に住民側が反対していて、という構図の場合、判官贔屓の日本人は住民側の肩をもってしまうが、そこはよく見極めないと、といったちょっと苦い結末

第三話の「デスボイス」は、S市からちょっと離れて、「一色」の東京の南青山のあるオフィスで起きた事件。

母親と高校への再登校の件で喧嘩して、家出した「直央」が一色のオフィスに泊めてもらいのだが、翌日、探検心を出して非常階段に行ったがために出くわすもの。セキュリティの厳しいオフィスビルのため、本棟に戻れず、非常階段から地下の駐車場まで降りた彼が、一足100万円するパンプスの片方が置いてあるのを発見するところで謎解きがスタート。その靴の持ち主として同じビル内のPR会社の女性社長が名乗り出るのだが、彼女はビル警備や警察を連絡するのを拒否する。彼女は本当の持ち主なのか・・・、彼女の会社は腹心や部下の退職が相次いでいるのだが、このパンプスとも何か関係があるのか・・という筋立て。

「デスボイス」というのは、デスメタルで使われるがなり声のことを言って、転じて「うるさい声」「不快な声」の代名詞らしく、このPR会社の女性社長の声が「デスボイス」の典型という設定なのだが、彼女がデスボイスな「陰」には・・・というのがミソですかな。

最終話の「うぬぼれ鏡」は、S市の私設美術館が舞台。の美術館は地方財閥の一族が経営していて、一族の落ちこぼれが館長になっている。その館長にパワハラを受けている事務職員に、一色がアドバイスを始めるのだが、彼に美術館の収蔵品の毀損とそれを隠匿した疑いがかかる。さらには、その美術館に数日前におきた盗難事件もなにやら関係してくるようで・・、といった展開である。

「うぬぼれ鏡」というのは、本書では「磨いても取れない黒ずみがついていて、それを覗くと、シミが付き、しわのようなヒビが入って見える」鏡で、ヨーロッパの女性が調子の悪いときに使った鏡とあるが、ネットでは、日本古来の和鏡に対し、江戸時代のガラスに水銀を貼った鏡をいって、容姿が実物よりもよく見える鏡をいう、とあってどちらが正しいか不明であるが、この物語的には後者の解釈のほうがすっきりきますね。

【レビュアーから一言】

本書でおきる事件の真相は、贈収賄、ゴネ得、脅迫、パワハラとかなりヘビーな内容なのだが、メインキャストの落ちこぼれ高校生・武川直央とイメージ・コンサルタントの一色のキャラのせいか、さほどの深刻味がないのが、このストーリー全体を軽くしていているのが良いですね。

最後の方で、直央も、一色も新たなスタートを切るのだが、どこかで「外伝」が読みたい気をおこさせる一冊に仕上がっていますね。

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