突然、ネットで連続殺人犯とされた男が辿り着いた真相は?=浅倉秋成「俺ではない炎上」

ネット上にあげられた投降から多くのネットユーザーから非難され、つるし上げられる「ネットリンチ」ともいえる「炎上騒動」は、「SNS」全盛時代といえる現代では、誰の身の上にでも起こりうることとなっているのですが、その投稿を「本人」がしたものかどうかや、投降が真実かどうかは、ネットユーザーたちの判断に委ねられているといっても過言ではありません。

「SNS」上に、自分の名前のアカウントで投稿された記事をきっかけに、突如、殺人犯として「特定」され、日本中から追われてしまうこととなった一人のサラリーマンの逃亡を描いたミステリーが本書『浅倉秋成「俺ではない炎上」(双葉社)』です。

あらすじと注目ポイント

物語の冒頭は、「住吉初翔馬」という大学生が、「SNS」のサイトで「血の海地獄・・」という呟きとともに、夜の公園らしいところにチェスターコートを着た若い女性が腹部に血らしい大きなシミをつくって倒れている画像を発見し、この投降をリツィートしたことから、このアカウントの持ち主(らしい)「山懸泰介」の投稿がバズりはじめたのが、滑り出しです。ちなみにこの投稿にでてくる「からえなにくさ」というのが、これからの事件展開の謎を解くキーワードになるので覚えておきましょう。

で、本筋のほうでは、大手ハウスメーカー「大帝ハウス」の社員である「山縣泰介」のフツーの会社員生活が描かれます。その日は、部下の野井とともに、本社のほうで力を入れ始めている「コンテナ・ハウス」のメーカー「シーケン」の展示場を訪れたのですが、持ち前の几帳面さでパンフレットの言葉遣いに意見をいったり、シーケンの担当・青江の態度にイラつきながら、打ち合わせをこなしています。

そんな二人のもとへ支社長から「山縣に支社にすぐ帰れ」という電話がかかってきます。何事かと帰還した山鹿に告げられたのは、彼が「殺人犯」として「特定」され、彼のTwitterが炎上しているということです。Twitterをやっていない山縣としては、驚いて否定するのですが、社への問い合わせや避難の電話が殺到し始め、会社の仕事に支障が出始めたため、山縣は自宅待機を命じられます。

しかし、彼の自宅の場所などすぐ特定され始め、自宅へも正義感と興味本位のネットユーザーたちが押しかけることとなり、さらには警察も聞き込みを始めたようなので、山縣は市内のホテルへ一時避難するのですが、「山縣」のアカウントに投稿されていた公園にあるトイレから、殺された女性の死体が発見され・・という展開で、ここから無実を訴えるも、誰にも信用してもらえない「山縣」の逃亡生活が始まっていきます。

逃亡生活といっても、資金が潤沢にあるわけではなく、会社帰りの姿でホテルへ避難してきているので、車に積んでいたゴルフウェアに着替え、徒歩でひたすら警察や人目を避けて逃げ回るという逃走行なのですが、ネット民たちの追及とその情報をみた一般市民による捜索の網は「山縣」をだんだんと追い詰めていきます。

そして、彼を自力で確保して、正義の制裁を咥えようというネット民たちも現れてきて、彼と間違って金属バットで暴行されるホームレスもでてくる始末です。

弁解する余地も与えられず、勝手に「連続殺人犯」として「特定」され、追い詰められていく展開には、他人事でない恐怖を感じてしまうのですが、警察の捜査員の中に、Twotterに投稿されたのが自宅のWifiで経由あることなどから、彼が犯人ではないのでは、と思い始める警察官がでてくるのが、たった一つの光明ですね。

中でも、殺された女子大生の友人だと名乗る「サクラ」という女性と、彼女に協力者にされた、冒頭にでてきた「住吉初翔馬」の追及がかなり執拗で、山縣は、自宅待機を命じられ一度自宅に帰った時に受け取った「警告文」が示す山中の廃墟へと導かれるようにやってくるのですが、そこで明らかになる真相とは・・といった展開です。

物語の途中で、山縣の自宅の様子や、意外に淡々とした彼の妻の様子、そして、学校で報せを受けてショックをうけながら帰宅し、騒動を避けるために母親の実家に身を寄せる娘の姿が挿話されていくのですが、少しネタバレしておくと、このへんに作者の仕掛けが隠されているのでご注意を・

レビュアーの一言

この物語は、ある大学生のリツィートで勝手に殺人犯に特定され、無実を主張する機会も暇もなく、世間から一方的に追われていく、という主人公の恐怖感をベースにしながら、怒涛のように展開していくのですが、その原因となったのが、主人公が思い込んでいた自己の姿と世間の認識との乖離や、主人公の過去のちょっとした行動が今回の発端となっていたことなど、思わぬことが大きな波のようになって自らにふりかかってくる「ネット時代」の怖さを描いているようです。

そして、それは「被害者」としての怖さだけではなく、「住吉初翔馬」が軽い気持ちでリツィートしたことが主人公の濡れ衣による逃亡の引き金になってしまったように、「簡単」に加害者となってしまう怖さでありますね。

本書は、ネット時代にフェイクに踊らされた主人公の物語であるとともに、ネット時代と新たな「ホラー」として読むべきなのかもしれません。

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